研究課題/領域番号 |
20H01885
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大矢 恭久 静岡大学, 理学部, 准教授 (80334291)
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研究分担者 |
波多野 雄治 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (80218487)
染谷 洋二 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 六ヶ所核融合研究所 核融合炉システム研究開発部, 主幹研究員(定常) (20589345)
芦川 直子 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (00353441)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ駆動透過 / 同位体効果 / 水素同位体移行 / プラズマ対向壁 |
研究実績の概要 |
本研究は、核融合炉プラズマ対向材料タングステンにおいて、燃料となるトリチウムを含む水素同位体(H, D, T)の移行(溶解、透過、滞留)挙動に関連する物理定数を、複数種の水素同位体存在下で明らかにすることにより、水素同位体移行に及ぼす同位体効果を解明することにある。そのために、静岡大学にてH, D, Heを高感度に分離可能な質量分析装置をプラズマ駆動透過装置に付加し、H, DプラズマまたはH, D+(He)プラズマを用いた同位体効果評価を進めた。HおよびDによるプラズマ駆動透過では、Hの方がDよりも透過率が1.3-1.6倍程度高くなり、ほぼ透過種の質量のルート2倍高くなることが明らかとなった。種々の割合でH,D比を変化させた場合、その比率のよりHDとしての透過の割合が変化するとともに、H:Dが50:50の場合にHDが最も多くなることが示された。この透過挙動には温度依存性が見られ、HよりもDの方が温度依存性が大きいことが示された。照射損傷タングステンについても同様に透過挙動評価をおこなったところ、H,Dともに照射損傷が導入されると透過率が減少することが示された。これは安定な空孔クラスターやボイドが形成した場合、水素同位体の透過障壁となるためであると考えられる。また、He添加効果についても初期データを取得した。 核融合炉真空容器内におけるトリチウムインベントリ評価に向けて複雑な炉内機器形状に合わせた2次元モデルに基づくトリチウム拡散コードの開発を進めた。特に核融合炉は重水素とトリチウムの混合プラズマ環境下にあり、多種類の水素同位体の拡散を扱えるコードであることが肝要である。当該計算を実施するにあたり、拡散計算に影響する実験データの整理と単色粒子での拡散モデルの調査分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
静岡大学にてH, D, Heを高感度に分離可能な質量分析装置をプラズマ駆動透過装置に付加し、H, DプラズマまたはH, D+(He)プラズマを用いた同位体効果評価が可能となり、その初期データとしてH,Dの同位体効果およびそのHe効果について実験的に知見を取得できた。また、高分解能の分光器を導入することによりプラズマ中の原子比評価が可能となり、プラズマ中のH/D比を高精度で評価できるようになり、プラズマ駆動透過に及ぼす信頼性の高い同位体効果を評価できるようになった。さらに、高エネルギーイオン照射により照射損傷タングステン試料についても同様のプラズマ駆動透過実験を行い、プラズマ駆動透過に及ぼす照射損傷影響に関する初期的知見を取得することができた。 シミュレーションにおいては。静岡大学で開発したHIDTシミュレーションを用いて、He滞留影響評価を行い、Heバブル形成によるバリヤー効果が高いことがあきらかにすることができた。また、拡散計算に影響する実験データの整理と単色粒子での拡散モデルの調査分析を行なうことができ、次年度から複数粒子による拡散計算に向けた物理モデルの調査分析を進める予定である。水素同位体効果評価のための基礎的なシミュレーションコードとして広く活用できるタングステン以外の系における適用手法についても検討を開始した。そのため、現在のところ、本研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
プラズマ駆動透過装置を用いて水素同位体透過に及ぼすHe混合効果および材料照射損傷導入効果についても明らかにする。特に、実際の核融合を模擬する上で必要不可欠な中性子照射により照射損傷を導入したタングステン材も活用し、表面近傍の組織変化と水素同位体透過に及ぼす同位体効果を明らかにする。また、核融合炉冷却材配管として有望視されているCuCrZr合金およびCu酸化物分散強化合金中の水素同位体の滞留および透過における同位体効果についても検討し、核融合炉システムでも水素同位体透過挙動の予測が可能な知見を集積する。 これらの実験で得られた物理定数をシミュレーションに組み込むことにより水素同位体移行モデルを構築する。さらに、核融合炉内を想定し、Wの核変換生成物であるRe生成における水素同位体移行評価についてもW-Re材を用いて実施し、各変換生成物による水素同位体移行影響評価を明らかにする。 これらの実験で得られた物理定数を用いて、核融合炉真空容器内におけるトリチウムインベントリ評価に向けて複雑な炉内機器形状に合わせた2次元モデルに基づくトリチウム拡散コードの開発を進める。特に核融合炉は重水素とトリチウムの混合プラズマ環境下にあり、多種類の水素同位体の拡散を扱えるコードであることが肝要であり、次年度は複数粒子による拡散計算に向けた物理モデルの調査分析を進める。 核融合炉プラズマ対向面での水素同位体透過と蓄積を模擬する手法として、タングステンに対してチタン(Ti)およびパラジウム(Pd)蒸着膜を使った試料による評価を行ない、タングステン単体の実験では分析対象から外れる量をチタンへ捕捉させることで、事後解析によるより詳細な透過挙動について調査する。
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