研究課題/領域番号 |
20H01890
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高島 圭介 東北大学, 工学研究科, 助教 (70733161)
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研究分担者 |
金子 俊郎 東北大学, 工学研究科, 教授 (30312599)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノ秒パルス放電 / 振動励起 / 窒素固定 / 非自己維持放電 |
研究実績の概要 |
放電プラズマ窒素固定の研究は,無尽蔵原料と自然エネルギーで価値ある物質を創成できるため,化石燃料に依存しない持続可能な社会の実現に寄与する.本研究の目的である大気圧付近での電離波を用いた選択的振動励起は,実用的な窒素固定実現に向けた本質的課題である高振動励起窒素の高密度生成の実現を目指している.そこで,壁面に局在しやすい電離波の一様電離の影響を考慮し,振動励起窒素を放電プラズマ体積中心でのレーザーラマン分光計測系を拡充させ,高効率なプラズマ窒素固定の実現に特に重要と考えられる高振動励起窒素(v>12)を直接観測できる実験系の確立に注力した. 前年度までに,窒素振動準位もv=8程度まで観測することが可能となっていたが,本年度のラマン散乱光の集光系の改善・実験条件の見直しにより,0.1気圧・振動温度3000K・ガス温度1000K以下において, 明瞭なv=8のラマンスペクトル観測が安定して観測可能となった.また,ラマンスペクトルの分析方法を,非ボルツマン分布となる振動分布関数の解析に対応するため,振動温度評価から分布関数の直接評価を実現する独自の手法を開発した.これにより,通常困難な振動励起状態窒素の各振動準位の密度評価が可能となった.また,換算電界を制御することで,振動温度が1000K程度上昇し,回転温度上昇を100K程度に抑止できることを実験結果にて明確に示すことができ,効率的なプラズマ窒素固定の実現に向け有意義な進展と考えている. 過電圧電離波生成に関しては,上述のプラズマ源において生成制御に関して重大な進展は得られず,開発したパルス電源の出力電圧に制限を受け,0.15気圧程度が放電可能な圧力上限となった.このため,大気圧での選択的振動励起実現に向けた非自己維持放電プラズマ生成には,異なる手法の導入が重要になるという示唆が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目で当初より早くレーザーラマン散乱・発光分光計測システムが構築でき,v=8までの振動励起窒素の観測と回転温度計測が可能となっていたが,ラマンスペクトルから,振動分布関数がボルツマン分布から大きく外れ,振動温度および回転温度の推定に大きな誤差を生じていた.本年度は,ラマン集光系の改善と実験条件の見直しにより,v=9までの安定した観測を可能とし,さらに独自のラマンスペクトル分析法を構築することで良好な解析が可能となり,振動分布関数と回転温度を同時に評価可能となった. これにより,0.1気圧において振動温度3000K程度がガス温度1000K以下で,非自己維持放電により,1000K程度の振動温度上昇が観測され,特に高次の振動励起準位(v>5)に明確な増加がある一方で,回転温度上昇が100K以下となることが実験的に明らかとなった.さらに,振動励起窒素の緩和モデルを構築し,本実験条件では振動準位間の緩和(V-V緩和)が熱化より急激に進展しており,ラマンスペクトルの計測時刻では,振動状態に入力されたエネルギーが,V-V緩和後の分布関数として反映されているという知見が得られた.これは,観測された振動温度・分布における温度上昇などが,選択的振動励起の結果得られたという解釈を与えている.これらにより,本研究の非自己維持放電プラズマが,窒素の効率的な振動励起を実現できている可能性を実験的に示していると考えている.一方で,室温に戻るまでの熱緩和時間はモデルより短く,実験では条件に大きく因らないことも明らかとなった.このため,振動励起窒素の窒素固定への利用には,振動励起状態窒素の生成だけでなく,熱緩和過程への理解が重要となるという示唆が得られた. 過電圧電離波生成に関しては重大な進展は得られておらず,大気圧での選択的振動励起の実現に向けて,新たな放電機構の導入が重要になるという示唆が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進展から,特に重要と考えられる高振動励起窒素(v>12)の生成と直接観測が期待できる放電プラズマシステムが構築されてきた.そこで今後,ラマン散乱計測の観測範囲の拡大(v= 0 - 15)および光学系の改善により,高振動励起窒素(v>12)生成の直接計測を目指す. その一方で,振動励起状態の緩和時間が条件に非依存的であることや,放電後の熱緩和時間が条件に因らず一定の時間で起こることなどが明らかとなっている.これは,振動励起窒素を反応に利用する際に欠かせない知見である.同時に,本研究計画においても,振動励起窒素を反応に利用することが重要でと主張している. このため,当初の電離波生成計画とは手法が異なるが,振動状態の緩和過程の理解を深めるため,放電後の振動励起窒素の減衰過程の観測に注力する.また,振動励起状態が緩和していく過程を0次元の振動緩和モデルを発展させることで議論を積み重ねる.さらに,熱流体モデルを用いて放電体積において生成された振動励起状態の輸送を理解し,実験的に得られた振動励起状態の緩和時間の理解を得ることに注力する.
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