研究課題/領域番号 |
20H01902
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野海 俊文 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (30709308)
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研究分担者 |
早田 次郎 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00222076)
泉 圭介 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 講師 (90554501)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 弦理論 / 素粒子論 / 宇宙論 / 弱い重力予想 / ランドスケープとスワンプランド / ブラックホール / 散乱行列理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、量子重力と無矛盾な素粒子論・宇宙論模型の判別条件「スワンプランド条件」の1つとして期待されている「弱い重力予想」の理論検証および一般化を行い、その現象論的帰結を明らかにすることである。これにより、量子重力理論への現象論的アプローチを開拓する。 初年度である2020年度は、野海が中心となり弱い重力予想の理論検証を主に進めた。特に、弦理論に代表される余剰次元理論に一般に現れ、暗黒物質やインフレーションへの応用も期待されている擬スカラー場「アクシオン」が関わる弱い重力予想の検証を進めた。散乱振幅のユニタリ性の視点から予想の証拠を与えるとともに、弦理論に動機づけられた様々な双対性が果たす役割を明らかにした。 また、野海と早田らは、弦理論に特有のT-双対性を明白に保つ Double Field Theory (DFT) の研究も行った。特に、宇宙項問題へのアプローチの1つとして期待されている「有質量重力子模型」に DFT を拡張した。この成果も踏まえ、弦理論の枠組みで宇宙項問題をどのように理解するか?という重要問題への新たな視点を今後提供できればと考えている。 泉は、「ブラックホールの地平面」に代表される様々な面の面積が満たすべき不等式を新たに発見した。ブラックホールエントロピーに象徴されるように、量子重力理論の枠組みでは「面積」が「時空の情報量」と解釈される。泉らが発見した不等式と弱い重力予想をはじめとする「スワンプランド条件」の関係を今後調べていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題における中心テーマの1つである「アクシオンが関わる弱い重力予想の理論検証」について、当初予定していた研究内容を年度内に遂行することができた。その過程では、弦理論に動機づけられた様々な双対性がスワンプランド研究において重要なことを見出すなど新たな発見もあった。加えて、野海と早田のDFTに関する共同研究や泉の「面積不等式」に関する研究は、本研究課題の新たな方向性を探る上で重要になると期待される。以上を踏まえ、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により、散乱振幅のユニタリ性や因果律に基づく「散乱行列理論」や双対性の視点が弱い重力予想をはじめとする「スワンプランド条件」の導出に有用なことを確認できた。これを踏まえ、素粒子標準模型や暗黒物質など「標準模型を超えた物理」にこの手法を応用していくのが今後の研究の1つの方向性になる。 また、泉らが発見した「面積不等式」と弱い重力予想の関係も積極的に調べたい。これまでの研究で用いてきた「重力理論における散乱行列理論」を用いてスワンプランド条件を導出する際には、高エネルギー領域における重力散乱の性質をいくつか仮定する必要があった。面積不等式の視点を用いることで、この仮定を「時空の情報量」の立場から理解できればと期待している。
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