研究課題/領域番号 |
20H01908
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 正俊 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (30400435)
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研究分担者 |
松田 洋平 甲南大学, 理工学部, 准教授 (50569043)
秋宗 秀俊 甲南大学, 理工学部, 教授 (60319829)
川畑 貴裕 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80359645)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トリプルアルファ反応 / 中性子非弾性散乱 / 元素合成 / 単色中性子源 |
研究実績の概要 |
本年度は、10MeV前後の単色中性子ビームを用いて中性子非弾性散乱測定を行うために必須のビームスウィンガーシステムによるエネルギー可変型単色中性子源の開発とFlashADCによるデーター収集系・解析手法の開発を実施した。また、昨年度から引き続きMIVOC法によるホウ素(B)イオン生成の開発を進め、CYRICにおける高強度単色中性子ビームを得ることのできる最適な中性子生成反応を決定した。 エネルギー可変型単色中性子源開発では、1次ビームのエネルギーを変更せずにビームスウィンガーの角度を変更することで、5MeVから10.2 MeVまでの単色中性子ビームを得ることに成功した。 FlashADCによるデータ収集系・解析手法の開発では、従来のシステムに比べて簡素化された回路で構成されたデータ収集系によるデータ収集システムを開発した。データ転送レートは最大80MB/sで液体シンチレーター検出器からの信号を理想的には約25k events/sで測定することを可能にした。これは従来のデータ収集システムに比べ約10倍の速度が得られる計算になる。また、波形データから信号のベースラインを適切に求める手法を開発することで中性子線とガンマ線の識別能力を向上させた。 Bイオン生成の開発では、B蒸気を発生させるMIVOCチェンバーを高電圧側に配置することで、効率よくB蒸気をイオン源へ導入することを試みた。結果、2.5pμA程度でより安定なBイオンの供給が可能になった。しかしながら、単色中性子源のバックグラウンドとなる中性子の連続エネルギー成分は、水素ガス標的の容器部と1次ビームによる反応からの発生が大部分であることがわかった。そこで、ビーム調整用バッフルスリットを追加して容器に当たるビーム量を減らすことで、13Cビームや15Nビームにおいても連続成分が小さな単色中性子ビームを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では、1. ビームスインガーシステムにおいてエネルギー可変型単色中性子源の開発、2. 液体シンチレーター検出器のFlashADCによるデータ収集系、およびニューラルネットワーク等を用いた波形解析手法の開発を予定していたが、研究実績の概要で述べた通り、いずれの項目についても、おおよそ目標を達成しているため、おおむね順調に進展していると言える。 また、昨年度から引き続き検討項目となっていた、中性子源として用いる反応には、13Cを一次ビームとして用いる1H(13C,n)反応が最適であるという結論を得ることができた。当初第1候補であった1H(11B,n)反応であるが、先に述べたように、バックグランドとなる中性子の連続エネルギー成分が主に水素ガス標的の容器部にビームが当たって生じていることがわかり、ビーム調整を行うことで連続エネルギー成分を激減させることに成功した。そのため、1H(11B,n)反応よりもビーム強度が得られる1H(13C,n)反応が最適という結果であった。 FlashADCによるデータ収集については、従来のVME規格のQDC・TDCモジュールを用いたデータ収集と同様の、飛行時間法による中性子エネルギー測定を可能にした。現在、液体シンチレーターの台数を増やした多チャンネルでのデータ収集を準備中である。解析手法については、FlashADCの特徴である波形データをオフライン解析において信号のベースラインを適切に求めることで、中性子・ガンマ線の識別精度を上げることを可能にした。 以上により、R4年度前期において開発したエネルギー可変型中性子源とFlashADCによるデータ収集システムを用いて、13Cビームの強度を上げることで、本実験を実施する準備が整う状態になったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で述べた通り、ビームスウィンガーによるエネルギー可変型中性子源とFlashADCによるデータ収集システムを用いて本実験を実施する準備が整ったため、R4年度前期では、本測定と同じ状況でテスト実験を実施する。テスト実験では現在可能な最高強度の13Cビームを用いて水素ガス標的の熱耐性や中性子収量の変化がないか等の確認を行う。また、本測定でバックグラウンドとなりうる数MeVのサテライト中性子の量を正確に測定するため、CYRICのビームチョッパーシステムを稼働させて測定を行う予定である。同時に、本測定に必要な測定時間を見積もりも行う。 なお、散乱断面積が小さく、中性子ビームの強度が不十分という状況に備え、水素ガス標的を液体窒素温度に冷却するシステムの開発も並行して行うことで、中性子ビームの強度をさらに4倍程度増強する改良も進める。 後期に実施する本測定では、CYRICの優先枠マシンタイムを利用し、十分な測定時間とその後の解析、論文執筆に十分な期間が確保できる日程でマシンタイムを実施する。また、より反応しきい値に近いエネルギー領域においても、アクティブ標的を用いた測定を行う準備を並行に進め、恒星中における炭素合成の増幅率に対して決定打となるデータを与えたい。 最終年度ということで、実験から成果発表を円滑に行えるように、オンラインミーティング等を利用しながら研究分担者らと定期的に打ち合わせを実施し、十分な議論を行いながら研究を推進する。また、トリプルアルファ反応の反応率計算を行う理論研究者とも議論を重ね、本研究対象の中性子による増幅率だけでなく、アルファ粒子等による増幅率、ホイル状態以外の高励起状態を経由する反応率等、炭素の元素合成について総合的な理解に努めていく予定である。
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