研究課題/領域番号 |
20H01913
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
山元 一広 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (00401290)
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研究分担者 |
三尾 典克 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70209724)
森脇 喜紀 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (90270470)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 重力波 / 低温検出器 / サファイア / 光吸収 |
研究実績の概要 |
2020(令和2)年度は主に低温系(クライオスタット)の調達を行った。本研究に対する交付が決定されたのち、研究代表者のかつての同僚(ドイツおよびフランス)とも議論をし、クライオスタットは寒剤を用いて冷却することにした。冷凍機を使うより安価に作成できるためである。冷えたヘリウムを流し、それによって実験領域を冷却する。温度はヘリウムの流量で調節でき5K付近から80Kまでが実現可能である。実験領域のサイズは冷却時間が長くなりすぎないように、かつ将来他の研究への利用という2点のトレードオフを考慮して、直径220mm及び高さ300mmとした。さまざまな可能性(寒剤を実験領域の上にするか下にするか)などを検討し、寒剤が上、実験領域が下になるようにした。この実験領域が隣接する光学台とほぼ同じ高さになるようにし、クライオスタットの真空槽が開いた状態で光学台からクライオスタットに光を導入して、調節してそのまま閉められるようにした。閉めた後は、光学系に関しては微調整だけで済むという利点がある。 以上のような詳細を決めたのちに入札を行い、業者が決定した。そのあと製作が進められた。平行してクライオスタットの周辺機器の選定と調達を行った。 2021(令和3)年3月24日にクライオスタットは富山大学に到着し、3月26日まで冷却試験を行った。無事上記の性能が実現できていることが確認できた。温度は必要に応じて速やかに変えたり、一定に保てることを確認した。温度を目標値に設定するための調整に少々時間を要したが、今後制御方法を調整することでより速い応答が期待できる。以上により本研究の目的にふさわしいクライオスタットが用意されたことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020(令和2)年度の研究実施計画の最大の課題はクライオスタットの準備であったが、これは無事終了した。これがおおむね順調に進展していると判断した理由である。以下詳細を説明する。 予想される価格から判断して入札が必要になることは明らかであり、年度末までの納期から逆算して仕様決定の締め切りを決めて具体的な設計を進めた。既に述べたように研究代表者のかつての同僚(ドイツ、フランス)などとの打ち合わせを重ね、大きな遅延なく入札手続きに入ることができた。 入札のあと製作が行われた。コロナによる影響を懸念したが、幸いそれほど大きな影響をうけることなくほぼ予定通りに進められた。製作と平行して周辺機器(ヒーターの電源や真空ポンプなど)の準備も行ったがこちらもほぼ予定通り進められた。 2021(令和3)年3月に完成したクライオスタットが富山大学に到着した。納品前の試験は寒剤の供給が可能な富山大学で行った。運搬途中における損傷もなく富山大学の極低温量子科学施設に運び込まれ、液体窒素とヘリウムによる冷却試験を行った。事前に真空に引いてから搬入し、真空引きにそれほどの時間をかけることなく試験を行うことができた。冷却試験は多少手間取ったが、当初予定していた3日間で終えることができた。5K付近から80Kまでの範囲で温度を調整でき、必要に応じてその範囲内のある一定の温度を維持できる、すなわち仕様通りの性能が確認された。 このクライオスタットは本研究の要となる装置であり、それが予定通りの性能をもつことを確認し、予定通りに納品されたことは非常に大きい成果である。これは次年度への大きな基礎となる。
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今後の研究の推進方策 |
2021(令和3)年度は常温での測定を行う。10Wのレーザーをサンプルに投入しその光吸収を測定する準備をまず進める。不純物(鉄もしくはクロム)をドープしたサンプルを用いる。 方法としては(1)温度の上昇を温度計で測定する、(2)光吸収によって生じたサンプル中の温度勾配と屈折率の温度変化によるサンプル内の光路の曲がりを測定する、(3)光吸収による熱応力が励起するサンプルの共鳴振動の測定の3通りを考えている。複数の方法をとることで測定の信頼性の確認が可能となる。(1)(2)はすでに行われている方法である。一方(3)は研究代表者による新しい方法で詳細な検討が必要である。 最初に(1)を行う。これはセットアップが簡単なためである。10Wレーザー光をサンプルに通し、温度計をサンプルに着けて温度上昇を測定する。大気中および真空中で測定を行う(測定方法や装置に不具合がないかの確認も兼ねている)。(2)に関しては10Wのレーザーの他に別のレーザーを入れてそのレーザーの光路の曲がりを調べる必要がある。この別のレーザーに関する光学系の設計を行い、設置、調節して測定を行う。(1)(2)を比較して結果に矛盾がないか、もしくはこれを利用した較正を行う。(3)は新しい方法であるため、詳細な検討が必要である。研究代表者が筆頭著者である宇宙線の影響による干渉計型重力波検出器の雑音の論文(Phys. Rev. D 78 (2008) 022004)の結論を進めて検討することで、どの程度の大きさの振動が得られるか判断できる。有望であればこの方法による光学系の設計を行う。 低温系に関しては試験運転を再度行う予定である。すでに述べたように納入時に試験を行い合格しているが、より効率の良い測定のために、温度制御系の調整が必要である。 以上により次年度(2022(令和4)年度)の低温での実験の基礎を確立する。
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