研究課題/領域番号 |
20H01913
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
山元 一広 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (00401290)
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研究分担者 |
三尾 典克 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70209724)
森脇 喜紀 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (90270470)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 重力波 / 低温検出器 / サファイア / 光吸収 |
研究実績の概要 |
2021(令和3)年度は主に光学系の開発を進めた。まず様々な測定方法について詳細を検討した。レーザーを試料に入射したあと、(1)試料の温度変化を測定(一定のパワーを入れるかもしくは変調をかけるか)、(2)屈折率の温度係数を利用して、試料の光学的厚みの変化を干渉計で測定、(3)熱応力によって励起された振動を干渉計で測定の3通りの方法を検討した。検討の結果後に述べたものほど精度が高くなるが、困難になるのでまず上昇温度を観測することを決定した(吸収が多いときはこれで測定が可能であることは独仏の測定で実証済み)。共同研究者である三尾を富山まで招き(旅費を申請)、以上の方針を議論した。 以上の測定方法の検討をもとに必要な光学素子などを検討した。高パワーレーザーを用いるため、安全対策(ゴーグル、遮光)やパワーを必要な場合に減らすNDフィルターが必要である。コリメートのためのレンズ、光を分けるビームスプリッターや偏光ビームスプリッター、鏡や光検出器、以上を固定する器具を調達した。また温度上昇測定のための温度計用電源やモニター、ロガーを調達した。 調達ののちに光学系のくみ上げを開始した。まず安全対策をとったのちに、(三尾から提供をうけた)10Wの高パワーレーザーの性能(稼働電流とパワーの関係、ビームプロファイルなど)を評価した。さらに複数あるパワーメーターの較正を行った。引き続き評価を行ったのち、光を試料に入射する光学系を構築する。 低温系に関しては寒剤を使用するため、特に液体ヘリウムの回収システムの確認を行った(既設のものは長らく使用されていなかったため)。およその目途はついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021(令和3)年度の研究実施計画の最大の課題は光学系の準備であった。何を準備するか検討し、調達は無事終了し、特性評価と構築を進めている。これがおおむね順調に進展していると判断した理由である。以下詳細を説明する。 具体的な測定方法の詳細を検討し、必要な光学系部品や温度測定装置をリストアップし、それらを全て調達、準備することができた。具体的には安全用ゴーグル、遮光器具、NDフィルター、レンズ、ビームスプリッター、偏光ビームスプリッター、鏡光検出器、以上を固定する器具、温度計用電源やモニター、ロガーである。 調達、準備後にこれらの特性などの検証を行った。レーザーの稼働電流とパワーを調べ10Wという測定に必要なパワーが出ることを確認し、ビームプロファイルを測定してコリメートに必要なレンズを選定した。以上を基に試料に光を導入する光学系の設計を行っている。それほど構築完成までに時間はかからないと予想している。 低温系に関しては当初利用を考えていた液体ヘリウムの回収システムが長年使用されていなかったため、低温施設の関係者と確認を行った。いくつかの問題はあるが、回収は可能であることが判明した。具体的なヘリウム回収方法も検討し、目途は立った(実際に行って問題がないかを確認する必要がある)。 まとめると光学系は本研究の要となる装置であり、予定通りに納品されて、基本性能は確認できた。冷却系についてもヘリウム回収可能であることが確認された。これらは次年度への大きな基礎となる。
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今後の研究の推進方策 |
2022(令和4)年度はいよいよ低温での吸収測定を行う。10Wのレーザーを冷却した試料に投入しその光吸収を測定する。試料としては不純物をドープしたものをまず測定し、その後にドープしていない試料へと進む。 まず試料に光を投入する光学系を構築する。既に物品の準備は終了しているためそれほど時間を要さない。まず大気中および真空中で測定を行う(測定方法や装置に不具合がないかの確認も兼ねている)。ヒーターを取り付けて既知の熱を与えて、温度と吸熱の間の関係を確立する(較正)。また散乱光が問題となる可能性があるので、その対応も行う。具体的には近傍に光が散乱してないかを確認し、それが測定に影響を与えている場合は、遮光を行う。 その次に冷却して測定を行う。クライオスタットの冷却はヘリウム回収システムの試験も兼ねている。回収が可能であることを確認した後に、クライオスタットの温度制御の調整を行う(クライオスタットの温度は大体液体ヘリウム温度から液体窒素温度まで調整が可能であるが、より効率の良い測定のために、温度制御系の調整が必要である)。冷却後の較正も必要である(低温では比熱や熱伝導率が大きく変わるため)。 以上により低温における効率の良い測定の基礎を確立する。これにより様々な条件で作成した試料を効率よく測定することができ、光吸収低減の手がかりを得ることができる。 またこのクライオスタットは他の低温での光学測定を行うことが可能である。たとえば低温での精密測定の雑音と関係のある屈折率の温度係数の精密測定や、鏡の反射膜の物性測定にも応用する予定である。
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