研究課題/領域番号 |
20H01944
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
井上 剛志 甲南大学, 理工学部, 教授 (90531294)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙線加速 / 超新星残骸 / 磁気流体力学 / 衝撃波 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
宇宙線は最高エネルギーが10の20乗電子ボルト以上にも達する核子からなり、宇宙空間に広く分布しているが、 その加速天体や明確になっていないという大きな問題が存在する。宇宙線の中でもエネルギーが1PeV以下の粒子は年齢が数百年程度の超新星残骸(SNR)で加速されると信じられてきたが、近年のγ線天文学の進展により若いSNRであっても宇宙線の最高エネルギーは100TeV程度に留まることが明らかになっている。 SNRでの宇宙線粒子の加速機構としては、衝撃波近傍で磁気波動によって粒子が散乱され徐々に加速していくフェルミ加速が有力であると考えられている。しかしながら、フェルミ加速で粒子を1PeVまで加速する為には、1mGaussレベルの磁場強度が必要であり、この磁場強度は星間媒質の平均強度である1μGaussを大きく上回っている。加速に必要とされる磁場を増幅する機構は幾つか提唱されているが、中でもBell不安定と呼ばれる宇宙線と磁気流体の間に働く不安定が有効であると考えられている。 本研究では申請者がこれまでに開発した衝撃波や磁場増幅といった磁気流体のダイナミクスと宇宙線の加速および伝搬のダイナミクスを同時にシミュレート可能な流体と宇宙線のハイブリッドコードを用いて宇宙線加速を解明することを目的とする。本年度は昨年度に引き続き宇宙線加速のシミュレーションコードを大規模並列計算機で実行した。昨年度に比べて宇宙線注入率、星周媒質の環境といった不定なパラメータを現実的な範囲内で変更しながらシミュレーションを重ねた。その結果、これまでのBell不安定で期待された磁場増幅レベルよりも、実際に再現される磁場強度は1桁程度小さいことが明らかとなった。これは宇宙線電流の構造を時間発展問題として精密に取り扱ったからこそ得られた成果であり、これまでのSNRにおける宇宙線加速に対する理解を更新するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究にはミクロな磁場の増幅過程をマクロな流体シミュレーションと同時に追跡する大規模な数値計算が必要であるが、新規開発したシミュレーションコードがモダンな大規模並列計算機との相性が良く、計算は順調に進んでいる。まだ、磁場の増幅率が過去の多くの理論モデルで仮定されてきたものよりも優位に小さいことが明らかとなり、この結果をきっかけに、どのような環境下であれば宇宙線が1PeVにまで加速可能であるのかを定量的に理解することが可能になった。この成果は Inoue et al. (2021)として査読付きの欧文論文誌 The Astrophysical Journal に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果は、1PeVまでの宇宙線加速にとってもっとも都合の良い環境であると理論的に予測されてきた重力崩壊型超新星爆発のごく初期を設定してシミュレーションを行うことで得られたものである。このような環境下での宇宙線加速の観測はまだ難しく、我々の理論的な予測を検証するためには、爆発後数百年経った超新星残骸のパラメーターでシミュレーションを行い、その最大エネルギーが100TeV以下とどまることを今後示していく必要がある。
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