本研究は、地球以外の天体に生命環境は発生しうるのか?という問いの解決に取り組む。解決のための最重要課題の1つは、太陽系における氷天体が持つ地下海の発生年代の解明である。発生年代を紐解く上で、地下海の内部物質が噴出して表層に堆積した年代「表出年代」の解明が鍵だが、表層物質の直接分析が不可能なため未解決だった。本研究は、宇宙プラズマ、微小隕石、太陽光の照射がもたらす表層物質の変性「宇宙風化」を実験室で時間を早送りして再現し、観測と比較することで表出年代を解明する。本研究では、宇宙風化を再現するプラズマ照射装置を完成させ、長期宇宙風化を再現することに成功した。実験サンプルのスペクトル情報とモデル物質の比較から、風化の継続時間の導出に最も適切な波長帯や関連する物質を見出す事ができた。サンプルを冷凍機で冷却することにも成功し、氷衛星と同様の温度環境を模した、現状で最もリアルな照射実験を実現する準備が整った。常温の塩サンプルに関しては、複数種類の氷衛星表層模擬物質に関して、プラズマの総照射量を変化させた照射実験を行うことができた。スペクトルにより表層物質の風化の度合いを定量化し、内部海物質の表出年代を定量的に紐付けることができた。先行研究の探査機や望遠鏡観測と、実験で得た風化ー表出年代の関係式を比較した結果、内部海物質が噴出した年代が2000年以内である、比較的新しい地形が氷天体上に存在することが明らかになった。また、望遠鏡による氷天体希薄大気観測と、照射実験による脱ガス率等を比較することで、内部海から表層へ噴出したばかりの水の塩分濃度が数10%以上の高濃度であることを示唆した。これは、内部海の塩分濃度が非常に高い可能性を示しており、内部海の環境の制約に成功したと言える。
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