研究課題/領域番号 |
20H01957
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桂華 邦裕 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10719454)
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研究分担者 |
海老原 祐輔 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (80342616)
横田 勝一郎 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (40435798)
笠原 慧 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00550500)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地球大気起源酸素イオン / イオン輸送、加速、加熱 / 磁場双極子化 / 磁気圏尾部ダイナミクス / 内部磁気圏リングカレント |
研究実績の概要 |
爆発的な宇宙嵐が発生すると、地球大気から流出した酸素イオンがエネルギーを得て(加速や加熱を受けて)、磁気圏全体のダ イナミクスに 大きく影響を与える。このプロセスには、大規模な磁気圏磁場構造の変化(磁場双極子化)が重要な役割を担っていると考えられているが、酸 素のような重い粒子の描像は未解明な点が多い。本研究では、磁気圏尾部を中心に飛翔する複数衛星のデータ解析とグローバル磁気流体モデル内での粒子追跡計算を組み合わせることで、「磁場双極子化に伴う酸素イオンの選択的な高圧化」のメカニズムを明らかにする。また、主要イオン種である水素イオンと酸素イオンに加えて、異なる質量や電荷を持つイオンの振る舞いにも着目することで、「内部磁気圏酸素圧の増強に影響を与える磁場双極子化の時間空間スケールの定量的評価」にチャレンジする。 本年度は、主にあらせ衛星を用いて、複数の磁気嵐期間中について、速度分布関数の変化を異なる領域で比較し、効率的にエネルギーを取得している領域を調査した。あらせ衛星の観測範囲では地球から最も離れた領域に当たる、地球半径の5倍から7倍において、重いイオンが選択的にエネルギーを得ていることが分かった。この領域はグローバルな(空間的に大規模な)磁場双極子化が発生する、引き延ばされた尾部的な磁場構造と双極子磁場との遷移領域であり、先行の理論およびモデリング研究から提唱される高エネルギー化と整合的である。本成果は、地球電磁気・地球惑星圏学会の講演会やアメリカ地球物理学連合の秋季大会で発表しており、国際学術誌への出版を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究業績の概要」に述べたように、地球内部磁気圏と磁気圏尾部の遷移領域に注入されたプラズマのうち、ヘリウムイオンや酸素イオンなどの重いイオンが選択的にエネルギーを取得していることが観測的に示された。また、本年度の観測的研究では特に電荷が小さい重イオンで顕著なエネルギー増加が見られた。この選択的高エネルギー化は非断熱加速の存在を示唆する新たな成果である。まだ観測例は少ないが、磁場双極子化が発生した時間帯に質量あるいは質量電荷比に依存するイオンフラックスの増加も観測されている。「磁場双極子化に伴う地球起源酸素イオンの選択的な高圧化」の時間空間変動の特性を明らかにしつつある。来年度以降、MMS衛星やVan Allen Probes衛星との同時観測イベントの解析や、シミュレーション研究をさらに進めていくが、そのための計算機環境(ソフトウェアやストレージ)はすでに準備が完了している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「研究業績の概要」に記載したデータ解析を拡張し、あらせ衛星を用いた統計解析や、MMS衛星やVan Allen Probes衛星も含めた多点同時観測の解析を進める。あらせ衛星で観測された低電荷重イオンの選択的高圧化が磁気圏近尾部でも発生しているか調査する。また、幅広い地心距離をカバーしているMMS衛星観測を用いた統計解析も実施する。これらの調査を基に、低電荷重イオンが効率的にエネルギーを取得している領域を同定する。また並行して、磁場双極子化を再現する磁気流体モデルの中で仮想的な粒子観測を実施し、得られた速度分布関数の時間空間変化と観測を比較することで、 重イオンの運動論的効果や非断熱的プロセスの有無や重要性を議論する。
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