研究課題
地球周辺の高度1,000 kmから40,000 km付近の宇宙空間には、放射線帯(ヴァン・アレン帯)と呼ばれる高いエネルギーを持つ荷電粒子群が存在する。放射線帯に存在する電子群は、太陽からのプラズマ流(太陽風)の変化に応じて、その数が大きく増減する。「あらせ」衛星などによる新しい観測によって、非線形のプラズマ波動が電子の散乱や加速を引き起こし、放射線帯の電子の数が変化している様子が観測されてきた。しかし、衛星の観測データは衛星周辺の様子のみを計測するため、プラズマ波動が放射線帯の電子群全体に及ぼす影響はわかっていない。本研究では、特に低周波数コーラス(LBC)による非線形波動粒子相互作用のシミュレーションを行い、LBCがphase trappingと呼ばれる過程を通して、相対論的なエネルギーを持つ放射線帯電子のバタフライ分布の形成を引き起こすことを示し、学術誌で報告を行った(Saito and Miyoshi, 2022, Geophys. Res. Lett.)。また、非線形波動粒子相互作用によって、降下電子の散乱量が大きく抑制され、オーロラの発光が低減する可能性があることを指摘した。さらに、統計的散乱過程を確率微分方程式にもとづいて定式化し、テスト粒子計算に組み込むことで、一つのシミュレーションにおいて、非線形過程と準線形過程の両方を解き進めることができるコードの開発にも成功した。そのほか、「あらせ」衛星データ解析にもとづく波動粒子相互作用の研究を推進し、コーラス波動や電磁イオンサイクロトロン波動との非線形波動粒子相互作用の研究も推進した。一連の結果は、国内外の学会で報告するとともに、複数の学術誌において報告を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、非線形波動粒子相互作用のシミュレーションを推進し、波動粒子相互作用に伴う電子の速度空間の変調過程の理解が大きく進んだ。特に、「あらせ」衛星の観測によって示されていたUpper Band Chorusが数十 keVの電子を短時間で加速する現象について、「あらせ」衛星のデータを初期条件として計算を行い、観測された数十 keV電子の加速とバタフライ分布と呼ばれる特徴的なピッチ角分布の形成を再現した。また、シミュレーション結果の詳しい分析から、Upper band chorus波動と電子との共鳴相互作用の際に、phase trappingと呼ばれる非線形波動粒子相互作用が発生し、電子のピッチ角とエネルギーが急激に増加することが明らかになった。このシミュレーションの結果をさらに発展させ、Lower band chorusと電子との非線形波動粒子相互作用によって、phase trappingが発生し、相対論的電子の加速とバタフライ分布の形成が起こることも予見した。これらの成果は学術論文に報告されており、当初の計画の想定を上回る成果であると判定している。
非線形波動粒子相互作用が起こる場所を特定するためのアセスメント方法の開発を継続する。特にthrehold amplitude、およびoptimum amplitudeと呼ばれる非線形波動の励起、成長に関わる量を、グローバルモデルが計算した電子速度分布関数のモーメント計算と、背景のプラズマ密度、磁場強度から算出し、典型的なホイッスラーモード波動の強度を考慮した際に、非線形のトリガー波の励起が起こる場所を抽出する。抽出された場所に対して、非線形波動粒子相互作用のシミュレーションを行い、アセスメント結果が予見するような非線形コーラス波動の励起と成長が起こるかどうかを明らかにする。先行研究からは、非線形コーラス波動の励起は、速度分布関数の温度異方性、ならびに高温プラズマ密度と背景プラズマ密度の比に依存することが指摘されているが、グローバルモデルの計算にもとづくアセスメントの際には、特にこれらのパラメータに対する依存性に注目sいながら検討を行っていく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 13件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 16件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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