研究課題
大気中のメタン(CH4)は、二酸化炭素に次いで重要な温室効果気体であることからその動態が注目されており、より確実なCH4濃度の将来予測を行うためにその変動メカニズムの解明が急務である。しかしながら、CH4の生成消滅過程が非常に複雑であること、大気中CH4濃度の観測や地上からのCH4フラックス観測からは、大気中バックグランドCH4濃度の変動原因に関する情報を得ることが困難であり、CH4濃度の変動原因について十分な理解が得られているとは言えない。本研究では、北半球高緯度域・北極域、南極昭和基地、そして北太平洋・西太平洋域における系統的なCH4濃度観測と、CH4放出源に関する情報を持つCH4の炭素・水素同位体比の高精度観測を維持・強化し、全球でのCH4濃度・同位体比の変動を明らかにする。さらに広域で観測されたCH4濃度・同位体比のトレンド解析と大気モデルを用いたCH4収支解析を行い、大気中CH4濃度の変動に寄与した放出源変動に関する知見を得ることを目的とする。本年度は、国立極地研究所に設置されているCH4炭素同位体比分析システムの整備と自動化を行い、多連自動インレットと液体窒素自動補給、酸化炉の自動再生を導入することにより、一日に従来の2.5倍の大気サンプルを分析可能にした。さらに東北大学のCH4水素同位体比分析システムについても分析シーケンスの最適化とシステムの改修により、一日の分析可能数を2倍にした。北太平洋・西太平洋域、南極昭和基地、そして北半球高緯度域で定期的に採取されている大気試料を分析し、CH4濃度および同位体比の全球分布とその時間変化を明らかにしている。海外機関とのCH4同位体比スケールの比較実験に参加し、我々の同位体比分析値と、事実上世界基準のニュージーランド水圏大気研究所による分析値の差が、過去15年以上変化していないことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通り、非常に手間のかかっていたCH4同位体比分析システムの自動化に成功し、分析精度を維持したまま一日のサンプル分析数を倍増させ、定期的に届く大量の大気試料を遅滞なく分析することを可能にした。さらに、北極域以外の大気試料の分析は順調に進んでおり、CH4濃度と同位体比の高精度時系列データを蓄積しつつある。コロナ禍による国際輸送の停滞と年度末のウクライナ戦争によって北極域(ノルウェー、カナダ)からの大気サンプルの輸送が遅延している。現地観測基地での大気採取は継続しているため、国際物流が復帰次第北極域大気試料の分析も進める。
世界各地で採取された大気試料のCH4濃度及び同位体比の高精度分析を継続して、それらの時空間変動を明らかにすると共に、北極域大気サンプルについても物流が復旧次第分析を進める。全球のCH4濃度及びその同位体比の時空間変動を明らかにし、その原因について考察する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
J. Meteorol. Soc. Japan
巻: 99 ページ: -
10.2151/jmsj.2021-015