研究課題
本研究は、中層大気微量成分の変動メカニズムの物理的および化学的理解のため、ミリ波帯にある複数の大気分子スペクトルをこれまでにない高い時間分解能で、かつ複数の方向に対して同時観測が可能な新しい分光ラジオメータの開発を行っている。2020年度は、①複数のビームを空に向ける(多方向観測)、②微弱な分子スペクトルを充分なS/Nで検出する(高時間分解能)という技術的課題に取り組んだ。①については、1台のラジオメータで多方向の同時観測を実現するため、受信機部分の小型化に向けた検討を開始した。導波管立体回路を用いるこれまでの受信機部分をマイクロストリップラインおよびコプレナーウェーブガイドによる平面回路に置き換えることを目標として、まずは10 GHz程度のマイクロ波帯の1/10スケールモデルでImage Rejection Filterを電磁界シミュレーターと電気回路シミュレーターを用いて設計した。今後、プリント基板を用いて設計した回路を製作し、設計通りの特性が得られるか実測する予定である。②については、受信機の自己雑音を低減させるとともに、従来よりも高いダイナミックレンジを持つ直列接合型のミリ波帯超伝導ミクサを国立天文台先端技術センターとの共同で開発した。180-250 GHzに感度を持つ広帯域性と、300 Kの黒体放射強度入力に対しても充分な線形性を実現するため、超伝導トンネル接合を複数個直列に接続することで飽和しにくい構造とし、その特性インピーダンスが電波入力部と広い帯域に渡って整合するように、チューニング回路を設計した。国立天文台で試作した素子の性能を実験室で評価した結果、局部発振周波数200-240 GHzで雑音温度50 K以下、170-255 GHzで75 K以下という良好な雑音性能が確認された。これは従来の同帯域の素子に比べて、2倍以上の広帯域化に成功したことを意味する。
3: やや遅れている
2020年度は、感染症の全国的な拡大に対する対応のために、大学キャンパスへの入構制限と出張の自粛措置が度々実施されることとなった。このため、研究室におけるシミュレーターを用いた設計、実験室での評価実験、関係者との打ち合わせなどが、予定通りには実施できなかったため、研究の進捗状況としては「やや遅れている」と判断した。
現在までの研究の進捗状況としては「やや遅れている」が、2021年度は感染症の対策を取った上で、大学キャンパスでの活動が通常通りに行える見通しである。出張は制限があるが、これはオンラインの打ち合わせを行うことでカバーが出来ると考えている。従って、今後は研究の遅れを取り戻して、計画に沿って進めて行けると考えている。2021年度は、昨年度に引き続き「多周波/高時間分解能達成に向けた新たなミリ波・サブミリ波受信機に関する要素技術の開発」を主に名古屋大学の実験室において実施する予定である。
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