研究課題
本研究は、中層大気微量成分の変動メカニズムの物理的および化学的理解のため、ミリ波帯にある複数の大気分子スペクトルをこれまでにない高い時間分解能で、かつ複数の方向に対して同時観測が可能な新しい分光ラジオメータの開発を行っている。2021年度は、昨年度から引き続き①複数のビームを空に向ける(多方向観測)、②微弱な分子スペクトルを充分なS/Nで検出する(高時間分解能)という技術的課題に取り組んだ。①については、受信機の小型化を目指し、従来は導波管立体回路で作られていた受信機フロントエンドの一部を超伝導ストリップ線路による二次元集積回路(MMIC)とする研究を進めた。この技術で実績のある国立天文台と共同研究を実施し、極低温下で超伝導平面回路デバイスの精密な評価が出来るように、電磁界解析ソフトウェアを使用して専用のテストブロックの設計を行った。②については、受信機システムの雑音を低減させて感度を向上させるために、ヘテロダイン検出に必須となる局部発振器が持つ自己雑音の低減に関する研究を実施した。200 GHzのミリ波帯において、周波数逓倍後の局部発振信号に対して狭帯域の導波管バンドパスフィルタを使用することで、雑音の低減が実現できることを初めて示したほか、安価なチップアッテネータを使用するだけで、容易で汎用的な雑音低減が可能となる手法も提案した。さらに、従来あまり検討されてこなかった大気分子の観測手法の改善に取り組んだ。現在の装置では、仰角スイッチングあるいは周波数スイッチングという手法で下層大気の影響を取り除いているが、電波望遠鏡を用いて遠方の天体観測に近年新たに提案されているFMLO(局部発振器変調法)を大気観測に応用することを目指している。これは従来の観測手法に比べて、観測の効率を向上させることができるために、結果的に大気モニタリングの時間分解能の向上に寄与することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目標は、中層大気微量成分の変動メカニズムの物理的および化学的理解のため、従来よりも高い時間分解能と高い空間分解能で観測が可能な新たなミリ波多視野・多周波分光ラジオメータの開発を行うことであり、その内容は①要素技術開発、②ラジオメータ試作、③試作機試験観測の三段階となっている。これまでに多視野化に向けた受信機フロントエンドの小型化に取り組み、来年度中盤にはテスト基板を用いた極低温冷却試験が実施できる予定である。実機に搭載する受信機のための基礎技術開発が、これによって達成される見込みとなっている。多周波化に向けては、目標観測周波数帯である180-250 GHzに感度を持つ超伝導素子の開発に既に成功した。また、高い時間分解能を実現できる新たな観測手法の実用化にも取り組んでいる。来年度は、これらの技術を集約したラジオメーたの試作と試験観測が実施できる見込みとなっており、研究の進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
2022年度は、現在検討してる基礎技術課題について、引き続き開発実験に取り組む。課題としては、受信機フロントエンド小型化のための超伝導MMIC開発、時間分解能向上に向けた観測システムの雑音低減のための局部発振器改良と新たな観測手法の導入である。これらを年度前半で行い、後半にはラジオメータの試作とそれを用いた大学キャンパス内での大気オゾン分子試験観測を実施する予定である。
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