研究課題
四国と九州の間に位置する豊後水道では、夏季を中心に低温で栄養塩濃度の高い水塊が太平洋の中層から豊後水道の底層へと進入する底入り潮という現象がみられる。この現象の存在は1990年代より報告があり、発生の特徴や豊後水道沖を流れる黒潮の挙動と関係していることが示されているが、発生メカニズムについてはほとんど分かっていない。2022年度は底入り潮の発生メカニズムの解明のため、豊後水道南部海域に3台の海底設置式超音波多層流速計を係留すると同時に、調査船による8日間連続断面観測を実施し、底入り潮発生時の水塊特性の変化と流動場の変動を捉えるための現場観測を行った。8月上旬と下旬に行った船舶観測時に底入り潮が発生し、底入り潮による低温水塊の進入を捉えることに成功した。この時の流速データを解析したところ、底入り潮発生時に15~20 cm/sの北向きの流れが底層で発生すること、最も南の観測点である陸棚斜面域の底層では底入り潮発生時に北向きではなく、反対の南向きの流れが発生すること、南の点で底入り潮が発生する前に、表層において黒潮系暖水が豊後水道へ進入していたことが明らかになった。得られたデータから力学バランスを計算したところ、黒潮系暖水の豊後水道への進入により南北方向の圧力勾配が生じ、これにより底入り潮が発生したことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2021年度の係留および船舶観測では底入り潮の発生を捉えることができなく進捗が遅れていたが、今回の観測で2回底入り潮を捉えることに成功し、研究計画に示していた観測データによる底入り潮発生時の力学バランスの計算も完了したことから、おおむね順調に進展していると判断した。
底入り潮発生時に南部海域の底層で南向きの流れが発生することが観測から示されたが、その理由が分からない。3次元の数値モデルにより計算された底入り潮の結果を解析することで、陸棚斜面上で南向きの流れが発生する理由を明らかにする。底入り潮により太平洋から供給された栄養塩が瀬戸内海の栄養塩環境に与える影響を3次元物理ー低次生態系モデルにより明らかにする。特に、瀬戸内海における外洋起源の栄養塩の比率と、豊後水道から流入した外洋起源栄養塩が瀬戸内海のどこまで輸送されているかを定量的に示す。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Fronter in Marine Science
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10.3389/fmars.2022.869285