本研究は,深層学習逆解析を用いて,タービダイト(混濁流堆積物)を古地震指標として用いることの妥当性を検証することを目的としていた.この目的を達成するため,まず,タービダイトを含むイベント性堆積物の特徴からそれらを堆積させた流れの水理条件を復元する手法の開発をおこなった.本研究で開発した手法を人工データで検証したところ,比較的少数の露頭データからであっても,本研究が開発した深層学習逆解析によって津波や混濁流の特徴が的確に推定できることが示された.さらに,実際に2011年東北地方沖太平洋地震津波堆積物および2004年スマトラ沖地震堆積物の逆解析を行ったところ,これらの津波で観測された水理条件が高い精度で復元された.このことは,本研究の逆解析手法は過去の地震・津波イベントを的確に復元可能であることを示している.
本研究の手法を二つの地層のタービダイトに適用した.一つは更新統上総層群大田代層であり,もう一つは鮮新統安房層群である.大田代層のタービダイトで復元された混濁流の流速は6 m/s程度であり,現世で計測されている非地震性混濁流とおおむね同等の流速を示した.一方,安房層群のタービダイトでは15 m/sというきわめて高速な流れが復元された.この流速は現世の海底谷の直接観測では記録されたことのないレンジではあるが,地震性地すべりから発達した1929年Grand bank沖混濁流はこれに匹敵する流速で流下したことが海底ケーブル破断の時間間隔から推定されている.このことは,地層中にみられるタービダイトには多様な起源の混濁流から堆積したものが含まれていることを想起させる.今後は,本研究で開発した手法を多くの地層に適用し,極端に大きい流速・規模の混濁流を検出することで,巨大地震の発生頻度の復元が行われることが期待される.
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