研究課題/領域番号 |
20H01988
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
澤井 祐紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (20399504)
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研究分担者 |
田村 亨 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (10392630)
矢田 俊文 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (40200521)
伊尾木 圭衣 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 企画主幹 (70784130)
行谷 佑一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (90466235)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海溝型巨大地震 / 津波 / 歴史史料 / 津波浸水シミュレーション / 千島海溝 / 日本海溝 |
研究実績の概要 |
2021年度は,千島海溝および日本海溝沿いにおいて発生した古地震の多様性を検討するため,地質調査,歴史史料分析,津波浸水シミュレーションを平行して進めた. 地質調査は,北海道東部太平洋沿岸と岩手県北部において実行した.北海道浜中町では,現在の地形と地下構造を詳細に調べるために,空中写真撮影,地中レーダー探査,掘削調査を実行した.掘削調査で得られた試料は,X線CT画像による堆積構造の観察を行った上で,火山灰の同定,放射性炭素年代測定,OSL年代測定を行った.この結果,過去約1000年間における海岸線の移動過程を推定することができた.根室市では,津波の詳しい浸水履歴を明らかにするために柱状堆積物を採取した.堆積物のX線CT画像撮影を行った結果,歴史時代に降下した火山灰層と津波堆積物の可能性があるイベント堆積物の層準を特定することができた.岩手県野田村では,水田において掘削調査を行い,869年貞観地震による津波堆積物と,それ以降に堆積したイベント堆積物が発見された.採取した試料については,X線CT画像の撮影を行って堆積構造の確認を行った. 歴史史料の分析では,明治12年(1879)刊行の「磐城岩代両国全図」に記されている福島県・宮城県沿岸部の山信田浦・松川浦・新沼浦・鳥ノ海とその周辺の文字情報を検討した.この結果,明治41年(1908)測図の大日本帝国陸地測量部の5万分の1地形図等の測量図とは異なり,「磐城岩代両国全図」には多くの文字情報等があることを明確にし,原本によって文字情報を読み込みわかりやすい文字に直すことができた.また,昨年度に続き,1843年天保根室沖地震の津波の状況について調査を行った.特に,『国泰寺日鑑記』や当時の様子を調査した既刊資料などをもとに,厚岸湾内における津波の状況について検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は,おおむね計画通りに研究を進めることができた. 北海道東部では,浜中地域において,測量,地中レーダー探査,掘削調査を組み合わせることにより,過去の海岸線の移動を復元した.また,過去の巨大地震による浸食の痕跡を検出することができた.根室市では,過去の津波浸水履歴を復元するため,連続柱状堆積物試料を採取することができた.また,明治12年(1879)刊行の「磐城岩代両国全図」について検討し,この地図が地震被害地域研究のための重要な地図であることを明確にすることができた.さらに,1843年天保根室沖地震の津波の高さについて,既往研究の整理を行った.ただし,『国泰寺日鑑記』の津波記事が示す場所についてはさらなる考察の余地があると考え,『国泰寺日鑑記』に関する解説等を参考に,津波記事が示す場所についての検討を行っている. 2021年度は,前年度と同様に,まん延防止等重点措置や緊急事態宣言の発出により,野外調査の期間を最小限としたが,得られた試料の諸分析や歴史史料の分析を進めることができたため,全体的には順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降も引き続き,地質調査,歴史史料分析,津波浸水シミュレーションを平行して進めるとともに,これまでに得られたデータをまとめて,論文出版および学会発表を推進することを目指す.地質調査は,論文化に必要な補足データを取得するため,北海道東部において野外調査を行う.また,これまでに得られた試料について,火山灰の同定による年代測定,地球化学的分析,微化石分析を進める.東北地方では,2021年度に採取した試料の年代測定を行うとともに,過去の地震時における地殻変動の検出を試み,得られた結果をシミュレーションの拘束条件とする. 歴史史料の分析は,宮城県・福島県沿岸地域が描かれる近世の国絵図を収集し,国絵図に描かれる「すが」(浜堤)の形状を比較する.国絵図の「すが」(浜堤)の近くには水路や沼等も描かれるので,明治初年の管内図と国絵図によって浜堤・堤間湿地を検討する.また,2022年度も,1894年地震の資料調査および1611年地震の資料調査等についても実施する予定である. 津波浸水シミュレーションについては,千島海溝南部で発生した13~14世紀の地震について,北海道東部太平洋沿岸における津波堆積物の分布をもとに津波の浸水シミュレーションを行い,断層モデル構築を目指す.また,1843年天保根室沖地震について津波計算等を行うことにより同地震の震源像を推定していく.
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