研究課題
本研究ではジルコンの微量元素組成から母岩の化学情報を推定する事を目指し、砕屑性ジルコン用の母岩推定図の作成に取り組んでいる。具体的な目標を、花崗岩形成時の堆積岩混入量をモニターする指標を作る事とする。堆積岩及び花崗岩親マグマは場所によって多様である。それ故に先行研究のように複数地域から採取した多様な花崗岩を一緒くたに扱うと複雑すぎて堆積岩混入量の指標作りには適さない。日本の中新世花崗岩は形成年代が若いが故に岩石自体が新鮮であり、日本人地質学者による詳細な地質調査のおかげで花崗岩及び貫入先の地質情報が豊富である。この利点を利用し、日本の中新世花崗岩を用い、花崗岩とジルコン双方の微量元素濃度を調べ、堆積岩混入量が増えるにつれてジルコン中に増加する微量元素を特定する。2020年度は甲府盆地、紀伊山地に産するそれぞれの花崗岩に対し、以下の研究を行った。甲府花崗岩体内の複数岩体から岩石を採取し、ジルコンのU-Pb年代測定を行った。その結果、甲府花崗岩を形成した火成活動は1550、1300、1050、400万年前の4回の時期に細分される事が明らかになった。この結果は国際誌に投稿し受理された。電子顕微鏡下で薄片を観察した結果、トール石、モナザイトは明らかにジルコンよりも晶出が早く、ゼノタイムがジルコンと共存したり固溶している様子が観察された。一般に堆積岩混入指標とされるThが、甲府花崗岩のジルコンにおいて今一つ堆積岩混入指標に成りえないのはこれら鉱物が先にThを吸収してしまうためと考えられる。一方で、甲府花崗岩の場合、NbやTa、Ceといった元素は、ジルコン内でも堆積岩混入度の指標として有用そうである事、ゼノタイム置換が起こると五価のイオン濃度が上昇する事などが明らかになってきた。紀伊山地に産する大峯花崗岩体内の複数岩体及び周囲の堆積岩帯から岩石試料を採取した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は甲府花崗岩体から追加岩石試料採取を行った。年代測定をして論文化を済ませ、ジルコン中微量元素組成についても追加分析を行った。その結果、上述のように甲府花崗岩体の場合に堆積物混入指標として有用な元素もある程度絞り込めた。一方で、紀伊山地に産する大峯花崗岩体からも岩石採取を行うことができ、おおよそ当初の計画通り研究は進展しているとの自己評価に至った。
昨年度の研究進捗状況を踏まえ、本年度は、本研究が対象としている甲府盆地、紀伊山地、南九州に産する花崗岩其々について、以下の研究を計画している。甲府花崗岩については、上述のように追加のデータ取得を済ませた。本年度はそれらの結果をまとめ、論文を国際誌へ投稿する。紀伊山地の大峯花崗岩体については、採取してきた岩石の薄片記載を行い、ジルコンの微量元素組成に影響を与えると見込まれる副次鉱物の産状を記載する。具体的にはルチル、スフェーン、燐灰石、ゼノタイム、モナザイト、トール石とジルコンがどのような晶出順序にあるのかを明らかにする。その後、岩石を弗酸ー過塩素酸を用いて酸分解し、イオン交換によって共存元素を除去した後、ストロンチウム同位体比を測定する。得られた結果を地質図上の位置と照らし合わせ、大峯花崗岩体内の各岩体が取り込んだ堆積物量を推定する。時間があれば、花崗岩からジルコンも抽出する。中新世花崗岩の東西方向の多様性を調べるために、南九州に産する南大隅花崗岩(S型、チタン鉄鉱系列)、市房山花崗岩(I型、チタン鉄鉱系列)から岩石試料を採取する。採取した岩石から薄片を作成し、上記同様、ジルコンと副次鉱物がどのような晶出順序にあるのかを明らかにする。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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