研究課題
本研究では砕屑性ジルコンへの応用を念頭に置き、堆積岩混入量が増えるにつれてジルコン中に増加する微量元素を特定する事を目指している。研究対象は山梨県甲府盆地、奈良県大峯地域及び鹿児島県大隅半島に産する中新世花崗岩である。甲府花崗岩については前年度までの分析に加えて補足的にデータを追加した。その結果、M型花崗岩からI型花崗岩への遷移に関しては、ジルコン中のNb/P比、Ta/P比が堆積岩混入量に応じて増加する事が明らかになった。大峯花崗岩に関しては薄片の初期記載、全岩の微量元素測定など、火成岩成因論に関する一般的な記載事項を行なった。花崗岩からジルコンを分離し、カソード写真に基づく内部構造の監察を行ったところ、inherited zirconが大量に含まれている事がわかった。中新世に成長した領域について、LA-ICP-MS/MSを用いて微量元素濃度測定を行った。その結果、I型花崗岩からS型花崗岩への遷移に関しては、堆積岩混入量に応じてジルコン中のNb/P比、Ta/P比、Ce/P比が減少する事が明らかになった。これは、堆積岩が多量に混入したことによってマグマが還元的になり、イルメナイトがジルコンよりも先行晶出してNb及びTaを吸収する事、4価のCeが枯渇した事によって、ジルコンにこれらの元素が配分されなかったためと考えられる。申請時の最後の研究対象地域である鹿児島県の大隅花崗岩から岩石を採取した。これに際し、隣接する猿が城、野間岬、紫尾山に産する花崗岩も採取した。最終年度はこれら岩石を分析していく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
堆積岩が花崗岩マグマに混入すると、最初はジルコン中にも堆積岩由来のNb, Ta濃度の増加が反映される。しかし、ある一定の閾値を超えてしまうと、マグマが還元的になり、晶出鉱物種及び晶出順番変化により、全岩には濃度が高くともジルコン中にはそれが反映されない事が明らかになった。特にS型花崗岩ではジルコン晶出が顕著に遅く、ジルコン晶出前に多くのHFS元素が他鉱物に吸収されてしまい、ジルコンのこれら元素濃度は低い結果が明らかになった。これにより、「研究実績の概要」に記述した当初の目的はひとまず達成された。また、元々研究計画にはなかったが、A型花崗岩中のジルコン微量元素を調べた結果、全岩中の濃い微量元素濃度がジルコン中にもしっかりと反映されている事が明らかになった。前述の成果と併せ、M型、I型、S型、A型花崗岩中のジルコンを一つの判別図において判別可能となった。これらの成果は2つの論文として発表予定であり、既にその両方を投稿済みである事から、上記区分の自己評価とした。
「S型花崗岩ジルコンにおいてNb/P比、Ta/P比、Ce/P比が減少する事」が一般的事象であるかを検証するために、大隅花崗岩中のジルコン微量元素組成を調べる。特に、この地域の花崗岩には柘榴石が含まれており、その鉱物とジルコンの晶出順番に注意を払いながら、ジルコンの化学組成を解釈する。これに際し、一般的な火成岩成因論も議論する。特に、花崗岩そのものがスラブ溶融起源であるのか、そのスラブ由来の鉱物が残存しているのかに焦点を置く。本研究課題は本年が最終年度であるため、成果の論文化と学会における宣伝活動に重点を置く。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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