研究課題
本研究では,独自の方法を組み合わせて,小型で低価格な SLR(衛星レーザ測距)装置を設計・開発・実証しようとするものである.初年度に当たる 2020 年度においては,SLR 計測基本部分の設計を行ったほか,パルスレーザ,イベントタイマー,望遠鏡架台などの基本的な性能評価も実施した.年度内に計8回の会合を対面およびオンラインにて実施し,独自の Slack ワークスペースを設置するなど,研究推進環境の立ち上げも行った.システム設計においては,低価格な機材で妥協できる部分と,そうでない部分を詳細に渡り選別した.測距で用いるレーザはパルス幅 1.3 ナノ秒の製品を使うが,発射繰り返し率は 10 kHz で運用し,1観測当たりの精度は低くても観測数を稼ぐことで統計上の精度を上げる設計になっている.また,他局との構成機材の比較から,リンク計算を実施し,低仰角衛星に対しては十分に測距可能であるとの結論に至っている.また,各構成機器とのインターフェースに小型マイコンを当てがうこととし,できるだけ各機器が独立に動作するものとしつつも,制御計算機からの指令や制御計算機へのデータ転送を効率的に行えるようにした.この基盤研究の枠組みを超えて,宇宙航空研究開発機構と本研究の研究代表者・分担者による4者共同研究も開始した.先方にて整備中のつくば SLR 局とも連携しながら開発を進めることとした.タイミング系など,一部の機材の相互利用も始めている.国内の学会や研究会においても積極的に情報発信を行っている.
1: 当初の計画以上に進展している
2020年度の開発の中心は基本部分の設計であったが,購入した機材の性能評価もすでに実施した.以下のものはすべて,これまで SLR 業界で使われた実績がないもので,低価格の商用既製品である.イベントタイマーはこれまで SLR 業界で使われてこなかったドイツ Swabian Instrument 社製品を購入し性能を評価した.高い繰り返し率で問題なく動作し,また1観測当たりの精度は 50-60 ピコ秒を達成できそうで,本研究の目的には十分である.望遠鏡架台については,国内 Vixen 社のアマチュア天文家向け製品を使って実験している.人工衛星の角速度は,一般の天体の百倍程度になり,高精度追尾には不利になるが,予備試験において短期の安定度は数十秒角を達成している.パルスレーザについては,ドイツ CryLas 社のナノ秒レーザを選定したが,発振タイミングをコントロールするための機能を Raspberry PI に持たせ,ユーザが望むタイミングで発振の ON/OFF ができるように整備した.
4年計画の2年目に当たる2021年度においては,室内および屋外にて固定距離に反射鏡を置き,そこまで測距が実施できるようにする.さらにそのあと,人工衛星に向けてレーザを放ち,本研究期間中には測距観測を行い,そのデータの品質評価まで行いたい.まず,2020年度に購入・試験をした各パーツを組み合わせてシステムとして動作させる必要がある.光学系の組み上げは,研究分担者・荒木が行う.各パーツ・各処理をできるだけ分散化することにしたため,2021年度では小型マイコンでの開発を中心とし,中央制御部からのインターフェースも設計する.これは研究分担者・横田が実施する.あわせて,2022年度組み込みを目指し,望遠鏡の向きを正確に与える架台の選定・試験も行う.正確さはもちろん,機動性,耐環境性,価格など多くの要素が絡む.これは研究代表者・大坪が担当する.引き続き,研究代表者・研究分担者・研究協力者は連絡を密にし,頻繁に会合を持つことにする.対面での会合だけでなく,オンラインの会議やチャットツールも活用する.2020年度は,研究代表者が学会講演会などで本研究全体の紹介を行ってきたが,2021年度後半には,日本測地学会講演会や宇宙科学技術連合講演会などにて,研究分担者を含めて各コンポーネントの紹介を行うことをめざしている.また,レーザ学会講演会からも招待講演を依頼されている.衛星追尾・測距の試験を行う場所の選定も進め,2021年度中に仮設置する.状況が許せば,2021年度後半に欧州の局を訪問,もしくは関係者を招へいすることを計画し,協力関係を構築する.
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 3件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 12件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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