研究課題/領域番号 |
20H02007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
堤 昭人 京都大学, 理学研究科, 准教授 (90324607)
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研究分担者 |
三宅 亮 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10324609)
伊藤 正一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60397023)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 石英摩擦 / 高速弱化 / 断層 |
研究実績の概要 |
岩石の摩擦実験において、すべりが高速になると摩擦抵抗が著しく低下することが知られている。この「高速摩擦弱化」の性質は、地震時における断層の最大すべり速度やすべり量などを予測する上で、極めて重要な情報であるが、その弱化発現機構の詳細は明らかになっていない。本研究では、(1)石英質物質を用いた摩擦実験により、幅広いすべり速度条件における摩擦強度の弱化特性を解明し、(2)摩擦面接触部のナノスケール三次元物質解析を行うことで真実接触部の変形構造と力学特性の詳細を明らかにし、(3)これらの結果を統合することで、摩擦強度弱化挙動の全貌とその発現機構を解明することを目的として研究をすすめている。 本年度は、(2)の内容に関して、人工水晶(石英)を用いた微小領域押し込み実験を実施し、石英の微小領域変形に対する相対湿度の影響を調べた。また、数 μm/s より低速のすべりにおける摩擦実験実施のために、既存の摩擦試験機に低容量の摩擦力測定システムを組み込んだ。 微小領域押し込み実験は、初年度に導入したナノインデンター装置(DUH-211S)を用いて実施した。人工水晶試料には初年度の摩擦実験で使用したものと同じ水晶ブロックから切り出したものを利用し、圧子には、稜角115°のベルコビッチ形ダイヤモンド圧子を用いた。実験の際、相対湿度条件を制御することのできる試料チャンバーを新たに設置し、実験中の試料近傍の相対湿度を一定に保持した。相対湿度が0-30%RHの範囲において、一定保持時間の圧子押し込み試験を実施して押し込み保持時間と変形量(圧子接触投影面積)との関係を調べた結果、(i)接触投影面積の保持時間増大による変化率が、先行研究で報告されている値と同程度の値を示すこと、(ii)この面積変化率の値が、今回の実験条件においても先行研究同様に相対湿度に依存しないこと、が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に記したように、初年度の摩擦実験に用いた実験試料と同じ石英を用いた微小押し込み試験によって、摩擦面接触部を模擬した微小領域の変形実験において、変形と相対湿度の関係について重要な実験データが得られ、研究は順調に進展している。特に、石英摩擦の性質が相対湿度の絶対値に対して依存性を示すのに対して、摩擦の大きさに重要な影響を与えると考えられてきた真実接触部の変形が相対湿度の影響を受けていない可能性が低湿度条件についても明らかになったことは重要である。今回得られた成果は、保持時間とともに摩擦抵抗が増大する現象(摩擦のlog t ヒーリングと呼ばれている)の湿度依存性を引き起こす要因に、真実接触部のクリープ変形以外の、水に関連した何らかの摩擦強化機構素が含まれていることを強く示唆する。 一方、今年度実施した一定荷重下での圧子押し込み試験においては、最大荷重における負荷保持時間の経過とともに圧子押し込み深さのデータが不規則に変動する様子が認められる場合があり、温度変化に伴う装置剛性変化(ドリフト)の影響が現れている可能性がある。徐荷曲線を利用して圧子接触投影面積を精度良く推定するなど、この不規則変動を除去する方策を探る必要があることも明らかになった。次年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,前年度までに引き続き以下の(1)と(2)の内容について研究を実施する. また、石英質物質の高速摩擦過程を記述することのできる物理モデルを検討する。 (1)岩石の摩擦特性解明のための摩擦実験:前年度に低トルク容量摩擦測定システムを組み込んだ低速摩擦試験機を用いた摩擦実験を、石英物質についておこなう。特に、湿度制御条件下での摩擦特性解明のための実験を、低すべり速度に拡張して摩擦特性の全容を明らかにする。 (2)-1 摩擦面のナノスケール力学特性測定:ナノインデンターを用いることで、実験試料の断層面微小領域について力学物性測定を行う。特に、試料部の湿度を制御した条件での測定を行うことで、断層真実接触部面積の時間依存成長(クリープ変形)の過程について湿度依存性を検討するためのデータを取得することを試みる。実験試料には、(1)の摩擦実験で用いているものと同様の人工水晶を用いる。 (2)-2 摩擦面のナノスケール構造解析: 断層物質および、ナノインデンターでの微小押込試験を実施した試料について、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた解析をおこない、ナノスケールの変形構造や結晶性などの性質についての観察・分析をさらにすすめる。また、摩擦面近傍の試料あるいはガウジ物質中の水の存在状態についても、二次イオン質量分析計(SIMS)による分析をすすめる。 以上の実験・分析により得られた結果から摩擦素過程モデルを検討し、学会発表を行う。
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