研究実績の概要 |
火星は、これまでの火星探査から液体中心核(コア)の存在がほぼ確実視されている。最近、InSight探査機による火星地震データから火星の内部構造が報告された(Stahler et al. 2021)。この最新の内部構造モデルから火星コア組成を制約するには、コア条件での鉄-軽元素系融体の状態方程式決定が不可欠となる。そこで本課題では、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた密度と弾性波速度の複合測定により、コア物質の有力候補であるFe-Ni-S系融体の密度と弾性特性を決定し、火星コア条件においてFe-Ni-S融体の圧縮曲線、状態方程式の決定を目指している。 本研究では、レーザー加熱式DACを用い、試料のX線透過率から密度を導出するX線吸収法を用いて密度測定を行った。またGHz域超音波の干渉から伝播時間を測定するGHz超音波パルス干渉法を用いて弾性波速度測定についても実施した。 2022年度は、Fe-Ni-S系の端成分であるFe, Ni, FeSおよびFe3S試料固体・液体の密度について、25 GPa, 3000 Kまでの圧力・温度条件で測定し、火星コア上部までの圧力・温度条件での密度測定を達成できた。得られたX線吸収法によるFeSやNi密度の精度評価を行った結果、高温アニール後に試料厚みを確保できれば、X線回折による密度と0.1-1.4%程度の差で、X線吸収法により密度を精度良く決定できることがわかった。 弾性波速度測定では、Fe試料のP波速度測定を~32 GPaまで実施しトラベルタイムを計測した。本成果はGHz-DAC音速法においては最高圧力・最短トラベルタイムの記録である。また岡山大学においてもGHz超音波法の測定システムがセットアップされ、弾性波速度測定が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗は以下の通りである。 2022年度は、密度測定については、Fe-Ni-S系試料の固体・液体の密度を、6-25 GPa, 1550-3000 Kの圧力・温度範囲で測定することができた。密度測定は、レーザー加熱式DACとX線吸収法を用いてSPring-8のBL10XUにて実施した。試料はFe-Ni-S系の端成分であるFe, Ni, FeS, Fe3Sを用い、圧媒体には単結晶Al2O3円板を用いた。また試料厚み決定用の参照試料としてKBr, RbBrを用い、試料と同時に封入した。試料厚みは、参照試料のX線透過率とX線回折密度から求めた。 得られた密度測定結果について、Ni試料では、24 GPa, 1880 Kまでの条件で固体密度を測定し、圧縮曲線を得た。得られた密度とX線回折密度は1.4%以内の差でよく一致した。また2760 Kまでの液体試料のX線透過率を測定した。FeS試料では、10-20 GPa, 1550-2400 Kの条件で測定した。FeS V相の吸収法による密度は回折密度と0.1-4.0 %の範囲で一致した。Fe試料では、6-25 GPa, 1700-3000 Kの条件で測定を行い、試料の回折ハローパターンから、液体状態を確認し、X線透過率を測定できた。またBeガスケットを用いて、DAC加圧軸に対し横方向から、X線透過率マッピングを行い、Al2O3円板により試料平行度が確保されていることを検証した。 GHz超音波法を用いた弾性波速度測定では、Fe試料の測定を大阪大学にてP波速度測定を~32 GPaまで実施し~6nsのトラベルタイムを計測した。本成果はGHz-DAC音速法の先行グループの成果と比較しても最高圧力・最短トラベルタイムの記録である。また共同研究者の米田博士により岡山大学においてもGHz超音波法の測定システムが整備され、弾性波速度測定が可能となった。
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