研究課題
本研究では,温暖化が急速に進行した2つの海洋無酸素事変(OAE1a, OAE2)を対象に,バイオマーカーや粘土鉱物などの新しい古環境指標を駆使して陸域環境の復元を千年以下の時間解像度で明らかにし,陸域生態系の激変とその全容を解明する計画であった。しかし、COVID-19の影響のため、2020年度は国内および海外における野外調査が実施できず、新しく採取した岩石試料を用いた当初予定していた微化石やバイオマーカーによる分析は行えなかった。そのため、先行研究で採取した試料に関して分析を行った。恐竜化石や調査に関しても海外渡航が厳しく制限されたため、これまでに収集してある標本の分析や文献調査を行った。岩石試料分析に関しては、炭素同位体比の測定のための前処理や有機地球科学分析やバイオマーカー分析のための植物片の抽出を主に行った。2021年度になり状況がやや改善されたため、OAE1a層準を対象にして、北海道芦別市の惣芦別川および惣芦別川北支流の上流域で野外調査を実施することができ、泥岩および凝灰岩の試料採集を行った.採取した泥岩試料を処理し、花粉,渦鞭毛藻シスト,有孔虫,放散虫などの各種微化石を抽出中である。加えてバイオマーカー分析も並行して開始した。凝灰岩についてもジルコンおよびアパタイトの抽出、レーザーアブレーションICP-質量分析計を用いてU-Pb年代の測定、波長分散型EPMAを用いて微量元素組成の測定の準備も再び開始した。しかし、2021年度の海外調査は依然として困難であったため、アジアの恐竜化石記録を総括しながら、国内標本の使用を含め検討することを開始した。
3: やや遅れている
2020年度はCOVID-19の影響のため、野外調査が実施できなかった。2021年度に入り、状況がやや改善されたため、 残されていたOAE1a層準を対象にして,北海道芦別市の惣芦別川および惣芦別川北支流の上流域で野外調査を実施し、蝦夷層群の泥岩および凝灰岩の試料採集を行った。蝦夷層群の低解像度(10m間隔)での試料については炭素同位体比の測定がほぼ終了しており、炭素同位体比曲線の大規模な正のシフトがみられることから、海洋無酸素事変OAE1a層準を明らかにすることができた。凝灰岩については、ジルコンおよびアパタイトを抽出し、前者についてはU-Pb年代の測定、後者についても微量元素組成の測定を開始した。また泥岩試料からは、花粉、渦鞭毛藻シスト、有孔虫、放散虫などの各種微化石を抽出中である。これまで採取した試料を用いて、バイオマーカー分析および無機元素分析も行った結果、被子/裸子植生比はOAE2の炭素同位体比の最下部において一時的に減少傾向を示すが、OAE層準を通して徐々に増大し、さらに上位の回復期以降で再び減少することが明らかとなった。しかし、2022年度も海外渡航調査は不透明であることから、アジアの恐竜化石記録の総括を継続して、国内の標本の調査も開始し、OAE1aの時期の陸上生態系に及ぼされた影響を検討することにした。
2022年度からはコロナ感染の状況が大幅に改善されることが予想されるため、野外調査を再開し、最終的な試料採取を行う予定である。昨年と同様に,北海道芦別市の惣芦別川および惣芦別川北支流の上流域で、今回は約1000年間隔の高解像度で泥岩および凝灰岩の試料採集を行う。採取した泥岩試料からは,花粉,渦鞭毛藻シスト,有孔虫,放散虫などの各種微化石を抽出し,微化石層序および古環境解析を行う。加えて、昨年と同じくバイオマーカー分析および無機元素分析を行うことにより、コケ類から大型の被子・裸子植物まで陸域を覆う「全植生の復元」および海洋の酸化還元環境の変遷を復元する。凝灰岩についてもジルコンおよびアパタイトを抽出、ジルコンのU-Pb年代の測定、アパタイトについては波長分散型EPMAを用いた微量元素組成の測定を行い、ルート間のテフラ対比を試みる。海外渡航調査に関しては不透明であることから、アジアの恐竜化石記録の総括を継続しながら国内標本の活用を考えているが、状況が改善できれば海外調査を計画している。
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