研究課題
本年度は下部白亜系に焦点をあて、蝦夷層群以外にも野外調査と試料の採集を実施した。下部白亜系下部では、福島県南相馬市に露出する相馬中村層群と宮城県気仙沼市大島の大島層群で柱状図の作成と泥岩、凝灰岩試料の採集を実施した。有機炭素の炭素同位体比を測定した結果、両地層からLate Valanginian Event層準を特徴づける炭素同位体比曲線のピークを両層群から見出すことができた。北海道の蝦夷層群下部の惣芦別川層~シューパロ川層でもルートマップの作製および泥岩・凝灰岩試料の採集を実施した。泥岩試料については高解像度での採集を行い、炭素同位体比の測定を実施している。凝灰岩試料については、放射年代の測定を行い、下部白亜系の年代モデルを構築が可能となった。有機地球科学分析では、比較研究のため米国のGreat Valley Sequence (GVS)のOAE2時の地層で陸上植物に由来する芳香族テルペノイドを用いた古植生解析を行った。被子/裸子植生比は、OAE層準では1st build-upなどにおいて一時的に減少傾向を示すものの、OAE層準を通して徐々に増大し回復期以降で減少することが明らかとなった。さらに、蝦夷層群佐久層から菌類バイオマーカーの探索と群集組成を評価する指標の開発を行った。羽幌川層では陸源ケロジェン・花粉分析を行い、被子植物花粉/裸子植物花粉個数比を明らかにした。恐竜化石では、植物食恐竜の中で特殊化した摂食方法を獲得した鳥脚類に注目し、この時期に生じた温暖化による植物相変化との関連性を考察した。アプチアン期以前、イグアノドンに代表される原始的なグループは、欧州や北米に生息していたが、アジア地域ではオーテリビアン期の立川層以外では知られていない。アプチアン期からアルビアン期になると、ハドロサウルス上科がアジアで多様化した。しかし、手取層群北谷層では、進化的な種と原始的な種が共存していたことがわかった。
3: やや遅れている
昨年まで国内および海外調査ができなかったため、計画にやや遅れが生じている。しかし、2021年度からは調査を再開することができ、国内研究は順調に行えるようになった。蝦夷層群については低解像度(10m間隔)での試料については炭素同位体比の測定が終了しており、炭素同位体比曲線の大規模な正のシフトがみられることから海洋無酸素事変OAE1a層準を明らかにすることができた。しかしながら、Fallot層やOAE1b層などのアプチアン中期~アルビアン初期に起こった海洋無酸素事変については、まだそれらの層準の特定には至っていない。有機分析はおおむね順調に進行している。北海道大曲沢川蝦夷層群の堆積岩試料におけるバイオマーカー分析全般と、比較のため米国Great Valley Sequence (GVS)堆積岩試料の基礎的なバイオマーカー分析はほぼ終了できた。蝦夷層群試料から菌類を起源とするバイオマーカーの探索とその群集組成を評価する指標の開発を行い、木材腐朽菌や地衣類を起源とするバイオマーカーを同定することができた。今後、GVS試料においても同様に菌類バイオマーカーの探索と群集組成指標を設定し、その有用性・適用性を検討する。海外調査が難しいため国内調査を実施することにした。本年度は、徳島県との共同調査で新たな化石を発見した。今後の共同研究により、種類の同定などを試みる予定である。また、中国甘粛省から発見されたハドロサウルス上科の記載を進めている。既存種と類似している特徴を示しているが、保存状態が非常によく、新しい特徴を追加する標本として検討を行っている。さらに、手取層群北谷層の2種についてCTを利用した上顎骨内部構造の検討を行い、新たな生態解明の研究も行った。
今後は、すでに採集しているアプチアン~アルビアン区間の泥岩試料の炭素同位体比および微化石分析を引き続き行い、FallotおよびOAE1bの中でもJacob, Kilian, Paquir, Leenhadlt層準をそれぞれ特定する。さらに、これらの海洋無酸素事変の層準のパイライト化度を測定し、北西太平洋における酸化・還元環境の変遷を明らかにする。また、上部白亜系については北海道北部において追加試料採集を実施する。具体的にはOAE1dとOAE2については苫前~幌加内地域に露出する蝦夷層群日陰の沢層~佐久層において行う予定である。有機地球科学研究に関しては、蝦夷層群試料で検討した木材腐朽菌などに由来するペリレンと、地衣類由来と推定される芳香族フランの分析をGVS試料でも応用して、菌類フローラ変動の復元を目指す。さらに陸上高等植物の植生変動データも合わせて蝦夷層群とGVSの陸域植物相・菌類フローラの変動データを比較して、同時代におけるアジア域と北米域の植生および陸域環境の発達史と、それに関連する環境・気候システムを解明することを目指す。恐竜化石に関しては、海外調査の困難さを念頭に置き、国内研究を進める。特に徳島県での共同調査に協力し、アジア最古の情報を追加する。さらに、植物相の変化の検討を行い、前期白亜紀から中頃にかけての植物相と鳥脚類恐竜フォーナの変遷を比較する。さらに、咀嚼能力を持つ角竜類恐竜フォーナも追加し、現在ある草食恐竜との比較検討を行う。
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