研究課題/領域番号 |
20H02025
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
徳 悠葵 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (60750180)
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研究分担者 |
巨 陽 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60312609)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薄膜 / 密着強度 / 原子再配列 / 電子風力 |
研究実績の概要 |
本研究では金属薄膜を対象に,高周波の高密度電流が原子配列に及ぼす電子風力の周期的「揺さぶり」によって原子の再配列を実現する.また,原子再配列の学理解明のため,高分解能透過型電子顕微鏡によるその場観察を実施する.さらに,応用上重要な薄膜の品質を定量評価するため,電流印加前後における薄膜の機械特性・電気特性について調査を行う.本年度の研究実績は以下のとおりである.
1:密着強度試験および電流条件の最適化:電流印加前後における金属薄膜には,原子の再配列に伴う機械特性変化が生じる.本年度は,初年度に開発した電流印加装置を用い,10MHzから70MHzの周波数における金属薄膜の機械特性変化を評価した.本実験により,材料によって最適な印加周波数が存在することを見出し,本手法は原子質量や原子の結合エネルギーに依存した最適電流印加条件が存在することを確認した. 2:電気特性評価:密着強度の評価と併せて,電気抵抗の変化についても評価を行った.本手法による電流印加処理後の金属薄膜は電気抵抗が低下することがわかった.また,最大密着強度が得られる電流印加条件において,電気抵抗はもっとも小さくなることを確認した.当該実験結果は,本手法による原子再配列は電流印加方向に平行に原子が再配列することを示唆しており,電気抵抗の低減を実現したものと考えられる. 3:電流印加前後における結晶構造変化の解析:各種条件によって変化した金属薄膜の結晶状態を調べるため,走査型トンネル顕微鏡による原子分解能観察を行った.本観察より,電流印加後の金属薄膜中の結晶は電流印加方向に平行に広がるように大きくなっていることが確認された. 4:エレクトロマイグレーション耐性の向上:電子配線の利用において,エレクトロマイグレーション耐性は極めて重要である.本手法の適用により金属薄膜の当該耐性が向上することを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に実施した金属薄膜の機械特性・電気特性評価の実験については概ね順調に進展している.また,概要に述べたとおり,電気特性と結晶構造の解析を通して,本手法によって再配列を促される原子は電流方向と平行に再配列する傾向であることがわかった.また,当初予定していなかった金属薄膜の配線利用に関して,本手法はエレクトロマイグレーション耐性の向上に有効であるといった成果を挙げている.一方,当初予定していた原子配列変化の動的挙動の可視化については,透過型電子顕微鏡によるその場観察に遅れが出ているが,その場観察実験用の顕微鏡ホルダーの導入や,具体的な観察中における電流印加装置の導入はすでに完了しており,次年度の早期に計画通り遂行予定である.総合的に第2年度は概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の研究計画では原子配列変化の動的挙動の可視化を中心に実施し,高周波電流による原子の再配列現象のメカニズム解明を図る.具体的には電流印加中の金属薄膜を透過型電子顕微鏡および原子間力顕微鏡を用いて原子分解能にて観察する.また,電流印加前後における原子ステップ・テラス上の原子の挙動を走査型トンネル顕微鏡により観察する.さらに,高周波電流と原子の力学的相互作用を詳細にしらべるため,モンテカルロシミュレーションによる電子と原子の相互作用の解明を実施する.また,当該シミュレーションの結果を機械学習により最適化し,原子再配列に有効な実験条件の特定を実施する.
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