研究課題/領域番号 |
20H02031
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
合田 公一 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (10153743)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グリーンコンポジット / 天然繊維 / 木粉 / ポリプロピレン / 表面被覆 / セルロ-スナノファイバー / UV照射 / 引張強度 |
研究実績の概要 |
繊維強化プラスチックは人工繊維と熱硬化性樹脂を使用しているため,長所として比強度・比剛性などの機械的特性に優れているが,自然分解されないため廃棄時の環境負荷が大きい.一方,グリーンコンポジットは,天然繊維と熱可塑性樹脂を使用しているため環境負荷が小さい.本研究では,木粉を強化材として熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)をマトリックスに用いた木粉強化複合材料(WF/PP)を射出成形法により作製した.続いて,セルロースナノファイバー(CNF)を含有するアクリル樹脂コート剤によって表面に被膜加工を施し,両者の引張特性に及ぼす影響について調査を行った. PP材の引張試験結果より,全般的にコート剤被膜による引張強度の向上を確認することができた. ここでは,コート剤被覆前にプラスチック用プライマーを試験片に吹き付け,下地を設ける場合と直接コート剤に被覆する2種類の試験片を作製した.その結果,下地を設けない場合に比べて,下地有りPP試験片の引張強度は低下した.プラスチック用プライマー層の厚さは0.0276mmであり,コート剤被覆層(膜厚平均値0.00248mm)のおおよそ11.5倍であった.プライマーの特性はコート剤よりも弱く,かつプライマー層の割合が高いため,プライマーの強度が反映して強度低下に繋がったと考えられる. WF/PP材の試験結果より,PP材と同様にコート剤被膜による引張強度の向上を確認することができた.また被膜による強度改善の度合いについて下地の有無に注目すると,下地有りでは平均して0.375%向上だったのに対して,下地無しでは平均して2.22%向上と,下地無しにおいて優れた強度改善効果が確認できた. 以上より,被膜加工方法として紙やすりとUVランプを用いた下地無し加工が優れていたことが判明した.一方,コート剤中のCNFの有無にかかわらず,強度にちがいは見られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではコート被膜試験片として下地を使用したものと使用しないもの2種類を用意した.下地は試験片とコート剤の接着性をより強固にするために設けるものであり,プラスチック用プライマーを試験片にスプレーし2時間乾燥させたものである.このプラスチック用プライマーの成分は合成樹脂(アクリル)と有機溶剤である.乾燥した試験片をコート樹脂に漬け,液だれが無くなるまで風乾させた.最後に80℃で30分間乾燥させた.下地のないものは,最初に紙やすり600番で各試験片のゲージ部を物理的に荒らした.その後,ハンディーUVランプ(SLUV-6,株式会社アズワン)を用いて試験片の各面を5分間の紫外線で化学的に荒らした.これらの処理を終えた試験片を,3種類のコート剤にそれぞれ浸し,液だれが無くなるまで風乾させ,最後に80℃で30分間乾燥させた. その結果,コート剤被覆により引張強度の改善は見られたが,下地有りの試験片の引張強度は下地無しに比べて引張強度は下回った.これは,下地の膜厚がコート剤被覆層の厚さを大きく上回り,かつ下地は軟質であり応力を支えることに劣るため,このようなちがいがみられたと推測される.したがって,試験片とコート剤のより強固な接着方法を考案する必要がある.また,コート剤に含有させたセルロースナノファイバー(CNF)の影響についても,明白な結論を得る必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
下地としてプラスチック用プライマーを用いたが,この方法では強度改善において効果がさほど見られなかった.一方,UV照射による表面改質が有効であったかどうかも別の方法と比較して判断する必要がある.そこで,より優れた接着方法として,試験片表面にプラズマ照射を行い,コート剤をより強固に試験片に被覆させる実験を計画する.
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