研究課題/領域番号 |
20H02045
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴田 隆行 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10235575)
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研究分担者 |
沼野 利佳 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30462716)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝子導入技術 / 電気穿孔法 / iPS細胞 / ゲノム編集 / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
本研究では,マイクロ液滴内(極微小反応場)に単一細胞と初期化遺伝子を封入し,同一のマイクロ流路内で連続的に電気穿孔を行う安全かつ高効率な遺伝子導入技術(オンチップ遺伝子情報改変システム)の確立を最終的な目標としている.本申請課題では,主に,基礎研究として,①提案するマイクロ液滴電気穿孔法の一連のプロセス(細胞整列→液滴形成→電気穿孔)における微小空間内での物理現象の解明と,応用研究として,②本提案技術をiPS細胞の作製技術として適用し,自動化量産技術としての有効性と安全性を実証することを目指している.令和2年度に得られた成果は以下の通りである. (1)マイクロ流路(遺伝子改変チップ)を用いた電気穿孔プロセス(直流電圧印加条件)において,電極表面に付着物が堆積する問題があり,長時間安定した処理が行えなかった.付着物を同定した結果,主に液滴内に封入した遺伝子(DNA)であり,一部,細胞膜(死細胞の残骸)も堆積していることを明らかにした。経験上,意図的に電極の極性を入れ替えることで付着物が除去できることがわかっていたことから,双極性パルス電圧の印加効果を検証した.その結果,パルス周波数10kHzの条件下では,長時間(~1h程度)の実験においても付着物が堆積せずに安定した電気穿孔プロセスが行えるようになった.さらに,電極の溶出(液滴内に気泡が発生する際に顕著に現れる現象)が起こる電圧の上限値をDC電圧2Vから双極性パルス電圧±6.5V(10kHz)まで大幅に増加できるようになった. (2)双極性パルス電圧印加条件下(±5V,10kHz)で,ヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)に緑色蛍光タンパク質(GFP)プラスミドDNAを導入し,GFP遺伝子の発現に成功した.現段階では,遺伝子発現確率は5%と低く,電気穿孔条件の最適化によって今後改善を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロ液滴電気穿孔プロセスにおいて,直流電圧印加条件下での問題点であった電極への付着物(主にDNA分子)の堆積,電極の溶出および気泡の発生を,双極性パルス電圧(周波数10kHz以上)を印加することで,大幅に改善できることを見出したことで,提案プロセスの量産技術としての可能性が大いに前進した.また,現段階で,ヒト胎児腎細胞株(HEK293細胞)に緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードしたプラスミドDNAの導入に成功し,遺伝子発現確率5%を達成できたことで,本提案プロセスの有効性が実証された.さらに,研究分担者(沼野)は,従来(独自技術)の液滴電気穿孔法(液滴直径1.8mm程度)によるiPS細胞の作製に成功しており,細胞培養条件ならびにiPS細胞の同定手法を確立しており,本申請課題のマイクロ流路(遺伝子改変チップ)を用いた電気穿孔プロセスでのiPS細胞作製実験の準備が整った段階にある.加えて,新規に2種類のマイクロ液滴電気穿孔プロセスを実現するデバイス構造を考案しており,当初計画のデバイス構造上での実験と同時並行で研究を推進することで,iPS細胞の作製実験を加速する準備が整った段階にある.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に得られた結果に基づき,以下の研究実施計画にしたがって研究開発を実施する. (1)前年度に引き続き,双極性パルス電圧印加条件を精査し,緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子発現確率10%を目指す.(2)数値解析手法(COMSOL)を利用して,液滴内の細胞に作用する電界強度分布および細胞内に導入されるDNA分子の電気泳動挙動を解析し,双極性パルス電圧の印加条件を最適化する.(3)Bリンパ芽球様細胞株(LCL:B細胞を不死化した細胞株)への山中因子(初期化遺伝子)の導入実験を行い,iPS細胞の作製確率の調査を開始する.また,従来(独自技術)の液滴電気穿孔法(液滴直径1.8mm程度)によるiPS細胞の作製および培養条件の最適化についても引き続き検討を行う.(4)遺伝子導入効率の向上を目的とし,新規な液滴電気穿孔プロセスを実現する.細胞と導入遺伝子を封入した液滴をマイクロウェル内に自律的に捕獲・配置する技術をマイクロ流路デバイスに実装する.さらに,電極を上下に配置したデバイス構造を実現し,現状のプレーナー型(流路底面に2個1組の電極を配置)と新規デバイス構造との遺伝子導入確率を比較し,その有効性を実証する.(5)第3の手法として,新規の考案したマイクロウェルアレイ内で細胞と導入遺伝子を封入した液滴を自動生成し,電気穿孔を行うマイクロウェルアレイ型デジタルエレクトロポレーション(dEP)技術の可能性を検証する.
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