研究課題/領域番号 |
20H02051
|
研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
松村 隆 東京電機大学, 工学部, 教授 (20199855)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 切削 / ドリル / 切削力 / 切削温度 / 残留応力 / シミュレーション / 機械学習 / ニューラルネットワーク |
研究実績の概要 |
本課題では,航空機材料の穿孔過程に対して,切削シミュレーションとAI技術を併用し,穴内面の残留応力分布を推定する残留応力評価システムを開発する.本研究では以下について研究を進めている.(1)切削シミュレーションによって切削力と切削温度を解析し,多層型ニューラルネットワークにより残留応力を推定する.(2)シミュレーションの基礎データ収集とニューラルネットワークの機械学習において,切削現象の観点から物理的に妥当な参照データを抽出できる「モデリングフィルター」を開発し,解析精度を向上させる.
まず,切削シミュレーションの切削特性データを実加工データから学習する手法を検討した.切削特性データは二次元切削モデルにおけるパラメータであるが,2021年度ではこれらのパラメータと切削力との関係を明らかにし,感度解析マトリックスを作成した.これにより測定された切削力の参照データに基づき,パラメータを同定する手法を確立した.この手法は,ニューラルネットワークのパックプロバケーション法の原理となっている一般化デルタルールに基づいたものであり,AIの手法をCAEの逆解析に利用したものである.
一方,ドリル切削における穴内面の残留応力に関しては,(1)残留応力の測定方法の確立,(2)切削条件と残留応力の関係を実験的に調べた.穴の内面の残留応力を測定する際に,測定の精度および操作上,材料を切断することが簡便である.2020年度下半期から2021年度上半期では,このような前処理が残留応力の測定値に及ぼす影響を調べ,材料の切断が残留応力に及ぼす影響は小さいことが明らかとなった.2021年度下半期では確立した残留応力測定法により,各切削条件に対して残留応力を測定した.その結果,ドリル形状のマージン部分の大きさとバックテーパが,それぞれ穴内面の円周方向と軸方向の残留応力に影響することが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は研究実施期間の2年目であり,本研究における2つの課題に対して,切削シミュレーションにおける基礎データの学習機能の完備,残留応力の測定法の確立,切削条件に対する残留応力特性評価をした. シミュレーションに対する整備と残留応力の測定は本課題の基盤であるため,現時点でそれらに対してある程度の成果が得られたことから,滞りなく進捗しているものと判断した. これに基づき最終年度では,切削シミュレーションによって材料に負荷する切削力,応力,および温度分布を得て,これらと残留応力との関係を調べ,残留応力を推定するシステムを構築できる.
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度の段階で,穴内面の残留応力がドリル形状のマージン部分とバックテーパに影響されることが明らかとなった.そこで,2022年度ではマージン部分とバックテーパの異なる工具を製作して残留応力に及ぼす影響を調べ,そのモデル化を図る.これに基づき機械学習での入力情報にドリルの形状効果を入れる. 一方,シミュレーションにより被削材の温度解析を実行する.なお,被削材の温度解析プログラムの試作は既に完了している.以上の準備のもとで,仕上げ面に負荷する力学的,熱的状態から残留応力を推定するシステムを構築する. このシステムは,切削条件と残留応力を関連づけるのではなく,シミュレーションから得られる物理的な情報と残留応力を関連づけるものである.そのため,残留応力の推定値に対する精度が向上するとともに,推定された残留応力の理論的な裏付けが可能となる.
|