研究課題/領域番号 |
20H02056
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸太郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (50377826)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トライボロジー |
研究実績の概要 |
ゲル薄膜を介在させた数十から数百nmのせん断すき間を精密に計測・制御し,せん断力(摩擦力),荷重,接触面積を同時計測できるナノ摩擦計測法の確立を目標としている.ゲル薄膜は表面開始グラフト重合により作成し,膜厚は数百nmオーダとする.水和高分子としてはMPCポリマー(MPC: 2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)を用い,これに超純水を滴下してゲル薄膜とする.申請者は従来研究において,先球光ファイバーをプローブとして利用した独自のナノ力学計測法を確立した.本法はFiber wobbling method(FWM)とよぶ.FWMはせん断すき間を0.1 nmオーダの精度で制御し,0.1 nNの高感度なせん断力測定が可能である.従来のFWMはせん断力測定のみで,その応用はずり粘弾性計測が主であった.本年度は,FWMにより摩擦特性(摩擦係数)の測定を実現するために,せん断力と同時にプローブの軸方向にかかる荷重の測定について,計測系の設計および原理検証を実施した.さらに,FWM測定系の下部に倒立型顕微鏡を配置し,プローブ先端とゲル薄膜との接触面積のその場観察,さらにニュートンリング観察による高精度なせん断すき間測定系を構築した.また,メカニズム解明に必要となる均一なゲル薄膜の作成法を確立した.薄膜はMPCポリマーの表面開始グラフト重合により作成した.作成プロセスや各種のプロセス条件を最適化すると同時に,重合に利用する紫外線照射光源系を独自に設計した.その結果,ゲル薄膜の膜厚制御と数mm角の領域において±5 nm以下の均一性を達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FWMにおいて荷重測定を実現するために,せん断力を検出する光ファイバープローブ内にFiber Bragg Grating(FBG)を形成する計測法を考案した.FBGとは光ファイバーのコアに周期的に屈折率が異なる領域を形成した回折格子のことをいう.プローブ内にレーザー光を導入して,FBGからの反射光強度を測定することとした.プローブの軸方向に荷重がかかると,回折格子の周期が短くなるため反射光強度が変化する.この光強度変化から荷重が定量化できると考えた.光学特性と材料変形を連成させた理論モデルを構築し,荷重計測の測定精度を評価した.FBGセンサを用いた実験においても,荷重計測が原理的に可能であることを確認した.さらに接触面積とせん断すき間の計測のために,FWM系の下部に倒立型顕微鏡を配置した新たな計測系を設計・構築した.構築した計測系において,従来研究と同程度の高精度なせん断力検出を達成した.またせん断力計測と同時に,微小プローブ先端と基板とのすき間分布によるニュートンリングの観測と,ゲル膜のせん断時における接触面積の同定が実現可能であることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
ゲル薄膜を介在させた数十から数百nmのせん断すき間を精密に計測・制御できるナノ摩擦計測法の確立のために,高精度なせん断すき間計測系の確立を目標とする.微小プローブ先端と基板とのすき間分布で形成されるニュートンリングの観測には成功したため,観測結果からリアルタイムにせん断すき間を同定する処理プログラムの開発,および解析結果に基づくすき間制御を達成する.せん断すき間の定量化のためにはゲル薄膜の光学特性が既知である必要があるが,ナノ薄膜の内部においては密度が均一でない可能性が考えられる.そこでゲル薄膜が存在しない領域を部分的に形成し,高精度なすき間測定と摩擦測定を両立する方法を確立する.摩擦特性計測法の開発と同時に,誘電緩和計測によるゲル薄膜の内部構造の観測に着手する.ゲル薄膜の基本特性を把握するために,従来法による誘電緩和計測を実施する.同時にナノ摩擦計測系において誘電緩和計測の実現を試みる.外部電場に対する分子レベルの応答性と摩擦特性の相関を明らかにして,潤滑メカニズムの解明を目指す.まずプローブ先端と基板間に形成される電場を有限要素法で解析し,計測に求められる精度や電極サイズなどの設計パラメータを抽出・最適化する.また予測される計測精度に基づき,信号の処理方法についても検討する.プローブ先端およびサンプル基板表面への電極の形成法についても並行して検討をすすめる.有限要素解析の結果やプローブ・基板電極の試作結果に基づいて計測系を構築し,ナノ摩擦計測と誘電緩和の同時計測について原理検証を進める.
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