ゲル薄膜を介在させた数十から数百nmのせん断すき間を精密に計測・制御し,せん断力(摩擦力),荷重,接触面積を同時計測できるナノ摩擦計測法を確立した.ゲル薄膜は表面開始グラフト重合により作成し,膜厚は数百nmオーダである.水和高分子としてはMPCポリマー(MPC: 2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)を用い,これに超純水を滴下してゲル薄膜とした.申請者は従来研究において,先球光ファイバーをプローブとして利用した独自のナノ力学計測法を確立した.本法はFiber wobbling method(FWM)とよぶ.FWMはせん断すき間を0.1 nmオーダの精度で制御し,0.1 nNの高感度なせん断力測定が可能である.従来のFWMはせん断力測定のみで,その応用はずり粘弾性計測が主であった.FWMに荷重測定系を付与して摩擦特性の測定を可能とした.またすき間測定のための観測系を構築し,微小プローブ先端と基板とのすき間分布で形成されるニュートンリングの観測に成功した.構築した計測系を用いて,ずり粘弾性と摩擦特性の同時計測を達成し,両者に密な相関があること,低摩擦が実現される二つのすき間領域が存在することを発見した.より詳細なメカニズムの解明に向けて,ナノ摩擦計測と同時に誘電緩和計測を実現する測定系を構築し,誘電緩和スペクトルの測定に成功した.またゲル薄膜のX線反射率計測を実施し,FWMで得られた粘弾性特性や摩擦特性とゲル薄膜のナノ構造の相関があることを明らかにした.
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