ひずみを与えると電気が発生する圧電効果は固体特有の現象として広く知られており、既に着火装置等に実用化されている。一方、液晶は棒状または円盤状の分子からなり、弾性率が低い柔らかい物質「ソフトマター」である。液晶は巨視的には通常の液体のように振る舞うが、微視的には結晶の異方性を有しているので、結晶と同様、圧電効果を発現する可能性がある。もしそうであるなら、潤滑しながら発電する軸受け、発電床のように踏圧を電気に変換するデバイス、さらには如何様な間隙にも形状適合して発電する無定形デバイスを開発できる。しかしながら液晶の圧電効果については未知の部分が多い。 本研究は数値計算と実験によって液晶の圧電効果の発現メカニズムを解明し、それに基づいて効果的な圧電条件を見出すこと、さらに、ひずみを高い効率で電荷に変換できる新規な液晶を化学合成することで、高電荷量の発電現象に資する基盤技術の創出を目指す。 2022年度は、昨年度に作成した実験装置を用いて、配向角を変化させながら実験を行った。回転速度を広範囲に変化させて、欠陥発生を偏光観察し、同時に円筒間に発生する電位差をナノボルトメータで測定した。とりわけ、欠陥発生と電位差との同時性について詳細に調査した。 連続体理論(Leslie-Ericksen理論)を用いて、粘弾性係数と発生せん断力の関係を数値計算によって調べた。L-E理論には、液晶分子の姿勢に依存する粘弾性係数が9個(粘性係数6個と弾性定数3個)ある。この中で、圧電特性に支配的なものを見出すことによって、圧電特性に優れた新規液晶の合成を試みた。
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