研究課題/領域番号 |
20H02062
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杵淵 郁也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30456165)
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研究分担者 |
吉本 勇太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90772137)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子流体力学 / 希薄気体流 / 気液界面 / クヌッセン層 |
研究実績の概要 |
(1) 蒸発・凝縮が生じている気液界面における溶質分子の濃度および配向の計測 気液界面に集積する溶質分子が溶媒の蒸発・凝縮に与える影響を明らかにすることを目的として,本研究では気液界面における溶質分子の濃度を第二高調波分光法により計測する実験系を構築する.本年度は,目標とする計測を実現するための光学系を検討し,フェムト秒レーザー装置をはじめとする機器の選定および導入を進めた.さらに,吸収スペクトル等の文献データをもとに複数の溶媒分子を選定した. (2) 多成分系の気液界面から蒸発する気体分子の速度分布計測 本実験には,2017~2019年度の科研費課題において構築した分子線装置を改良して利用する.直径数百nmの穴が多数空いているナノ細孔膜から液体を真空中に蒸発させ,噴流の中心軸に沿う成分を分子線として抽出する.分子線は機械式チョッパによりパルス化され,検出器に到達するまでの飛行時間分布を計測することで,気体分子の速度分布が求められる.これまで用いてきたナノ細孔膜は破損しやすく取り扱いが難しいという問題点があったため,本年度はナノ細孔膜の形状を見直し,その形状を実現するための加工プロセスの確立に取り組んだ.二層の酸化膜層を有するSOI (Silicon-on-insulator)ウェハに複数回の深堀反応性イオンエッチングプロセスを施すことで,目標とする形状を実現することができた.さらに,光学顕微鏡観察下での予備実験により,真空環境での気液界面保持が可能であることを確認した. (3) 細孔アレイ膜からの蒸発による非平衡気体流れの数値解析 細孔アレイ膜からの蒸発による非平衡気体流を分散低減型モンテカルロ法により解析し,細孔径や細孔間隔を広範囲にわたって変化させた際の流れの様子を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光学系の検討やレーザー装置の選定に時間を要したため,第二高調波分光法による気液界面の計測については予定よりも遅れているが,これまでの検討により実験系構築の方針は明確になっており,今後速やかに計測に取り掛かれると考えている. 蒸発分子の速度分布計測については,ナノ細孔膜の形状および加工プロセスの見直しが奏効し,信頼性の高い実験系の構築が可能となった.本成果を活用して,次年度は蒸発分子の飛行時間分布計測を計画している. 数値解析については,おおよそ計画通り進展している. 以上を総合的に判断して,やや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 蒸発・凝縮が生じている気液界面における溶質分子の濃度および配向の計測 光学系の検討やレーザー装置の選定に時間を要したことにより計画よりも遅れている実験系の構築を進める.第二高調波発生分光法により気液界面における溶質分子の濃度を計測する光学計測系を作成し,計測の妥当性を検証する. (2) 気液界面から蒸発する気体分子の速度分布計測 液体をナノ細孔膜から真空中に蒸発させた際に生じる噴流の中心軸に沿う成分を分子線として抽出し,飛行時間法により速度分布を計測する.通常,液面からの蒸発により生じる気体流れにおいては,分子間衝突により速度分布が平均自由行程の数倍程度の短い距離で急速に緩和してしまうため,蒸発直後の気体分子の速度分布を直接的に計測することは困難である.本計測系ではナノ細孔膜の形状を適切に設計することにより,噴流中において分子間衝突がほぼ生じない状況を実現できるため,蒸発直後の気体分子の速度分布を直接的に計測することが可能である.蒸発が急速に生じる条件において,速度分布のマクスウェル・ボルツマン分布からのずれの有無に着目して検討を進める. (3) 多孔体表面からの蒸発に伴う非平衡気体流れの解析とモデリング 細孔アレイ表面からの蒸発を対象として,非平衡気体流れの解析,液体の流動解析,固体内の熱伝導解析を連成させた解析を行うことで,細孔形状,流体の物性,温度・圧力などの条件が蒸発流れに与える影響を明らかにする.さらに,質量,運動量,エネルギーの保存則に基づく単純な予測モデルによって結果を整理することを試みる.また,回転自由度を持つ多原子分子の流れに対して,分散低減型モンテカルロ法を適用するためのアルゴリズム開発にも取り組む.
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