(1) 気液界面から蒸発する気体分子の速度分布計測 気液界面の境界条件を定める上で問題となる蒸発分子の速度分布を実験的に計測するために構築した分子線装置の改良を進めた.昨年度までに,本装置を用いて重水(D2O)の速度分布を計測することに成功しているが,真空容器内の残留気体によるノイズのため,軽水(H2O)の速度分布を計測することは困難であった.今年度は,真空容器内で気液界面を保持するためのナノ細孔アレイ膜のレイアウトを見直し,蒸発後の分子間衝突を抑制しつつ分子線強度を増加させる設計を検討した.また,ナノ細孔アレイ膜を作成するためのMEMSプロセスを見直し,歩留まりの向上および加工に起因するナノ細孔周囲のコンタミネーションの低減を実現した. (2) 蒸発・凝縮が生じている気液界面の第二高調波分光計測 蒸発・凝縮が生じている液面を第二高調波分光法により計測することで,気液界面に集積する溶質分子の濃度と溶媒分子の蒸発流束の関係を取得し,蒸発・凝縮係数の評価を試みた.今年度は,光学系および第二高調波の検出方法の見直しにより,計測感度の大幅な向上を実現した.近赤外領域に吸収スペクトルのピークを持つ溶質分子(クマリン314)を用いて,濃度と第二高調波の強度の関係を確認した.続いて,溶液の質量の時間変化から正味の蒸発流束を評価し,溶質分子の濃度と蒸発流束の関係を整理した. (3) 多孔体表面からの蒸発に伴う非平衡気体流れの解析とモデリング 細孔アレイ膜からの蒸発を利用した気化冷却デバイスに関して,非平衡気体流れの解析,液体の流動解析,固体内の熱伝導解析を連成させた解析の結果を整理した.非平衡気体流れの解析に分散低減型モンテカルロ法を用いることで,幅広いクヌッセン数を対象とする解析を実現した.
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