研究課題
乱流環境中において限られた濃度センサ情報に基づきスカラー源を探索することを目的として、スカラー輸送方程式を陽的に考慮した深層学習ネットワークを構築し、その効果を検証した。その結果、少ない計測データに基づき精度良くスカラー源が推定できることが確認された。その一方で、推定精度はスカラー源の位置と観測点の位置に大きく依存し、ケースによっては与えられたセンサ情報のみでは、精度の高い探索が難しいことが示唆された。これを受けてアクティブラーニングの手法を導入し、今まで得られている情報から最も効果が高いと思われる位置へセンサを随時移動させることにより、スカラー源位置をより正確に推定するためのアルゴリズムを開発した。これにより、当初のセンサ配置ではスカラー源の推定が難しい状況においても、センサが移動することでより効果的な計測データを取得し、スカラー源を同定できることを確認した。上記の手法では決定論的なアプローチを取ったが、別のアプローチとして確率的なアプローチによるスカラー源探索アルゴリズムを開発した。具体的には、限られた計測データとスカラー輸送方程式を組み込んだガウス過程によるスカラー源推定アルゴリズムを開発することにより、スカラー源の推定のみならず、その不確かさの情報を得るためのフレームワークを構築した。より不確かさが大きい領域にセンサ群を配置することにより、スカラー源の推定精度が向上することを確認した。一方、実験では、2m x 3mの風洞において、移動ロボットによる濃度計測、そのデータ処理、次の計測場所の決定をリアルタイムで実行するためのシステムを開発し、上記の深層学習を用いたスカラー源探索手法を適用した。比較的単純な一様流において、上述のシステムを用いてスカラー源を同定することが可能であることを実証した。
2: おおむね順調に進展している
基礎的な流れ場ではあるものの、限られた計測データからスカラー源を推定するためのアルゴリズムを提案し、数値シミュレーションによりその推定性能の評価ができている。決定論的なアプローチとしては、スカラー輸送方程式を考慮した深層学習を用いたものを提案し、スカラー源を推定するだけでなく、次に配置すべきセンサ位置を求めるための方法論を構築することにより、実問題への応用の可能性が開きつつある。一方、確率的なアプローチとして、推定の不確かさの情報を得るための方法論を提案し、不確かさの情報に基づきセンサ配置を決めるアルゴリズムも提案し、その検証を進めている。いずれの場合においても、計算時間も比較的小さく、実験におけるリアルタイムでのスカラー源推定が原理的に可能であることを確認した。これらのアルゴリズムは、実際にスカラー源推定用風洞実験に適用されて、高い推定性能が実証されつつある。以上のように、アルゴリズムとそれを実証するための実験設備共に、当初の予定通り開発が進められていることから、順調に進展していると判断した。
これまで比較的単純な流れ場、かつ単一のスカラー源が配置されている系において、スカラー源探索およびセンサ配置に関するアルゴリズムの構築を進めてきた。今後は、より複雑な流れやスカラー源が複数配置されたケースにおいて、全てのスカラー源を効率的に探索するためのアルゴリズムの開発、検証を進める予定である。特に、複数のスカラー源が配置されている場合において、与えられたセンサ配置において、あるスカラー源が他のスカラー源に対してセンサ感度が小さい場合では、感度の大きなスカラー源が優先的に推定され、それにセンサ配置も支配される傾向が確認されている。このような状況においても、感度の小さいスカラー源を効率的に発見できるようなスカラー源推定アルゴリズムの開発を進める予定である。また、これまで深層学習による決定論的なスカラー源推定手法とガウス過程を用いた確率的な手法の開発を並列に進めており、いずれも興味深い結果が得られているが、前者は不確かさの評価ができない一方で、後者はセンサ数の増加と共に計算負荷が増大するという欠点を抱えている。近年、深層学習において不確かさを考慮する手法も提案されていることから、両者の利点と欠点を補うような新しいアルゴリズムの構築に向けても研究を進める予定である。また、実験においては、今後、より複雑な流れ場に対して、数値シミュレーションで有効性が確認されているアルゴリズムを適用し、その推定性能を評価すること、またそのために風洞内の複雑な流れ場の計測とシミュレーションとの比較を進める予定である。
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PLOS Computational Biology
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