本研究では、粘弾性流体の特異な流動現象である「最大抵抗低減流れ(MDR流れ)」の生成・維持における「粘弾性」の役割を明らかにすることを目的とする。そのため、ニュートン流体(水)および非ニュートン流体(粘弾性流体である界面活性剤水溶液)を平板上乱流境界層流れに壁面高速注入(主流の数倍程度大きい速度で壁面に沿って注入)することで「流れの完全再層流化」(層流が十分に下流でも維持される)を図る。実験においては、溶液の高速注入が可能な注入機構を構築し、可視化観察、およびPIV計測を実施する。数値計算においては、溶液の高速注入に対応した流入境界条件および界面活性剤水溶液のレオロジー特性を忠実に再現したDNSを実行する。「溶液の壁面高速注入による完全再層流化の効果」と「粘弾性流体の持つ抵抗低減効果」の類似性に着目しつつ、実験と計算の両面から「MDR流れの生成・維持機構」を解明する。 2022年度は、実験については、高圧マイクロフィーダーを用いた水、界面活性剤水溶液、および高分子水溶液の壁面平行高速注入した場合のPIV計測を行い、著者らによる従来研究である水および界面活性剤水溶液を壁面に対して30°の角度で低速で注入した場合との比較を行った。また、数値計算については、構成方程式モデル(FENE-Pモデル)と濃度の方程式をカップリングすることで、壁面平行高速注入の実験をより忠実に再現した直接数値シミュレーションを実施し、粘弾性流体の壁面高速注入が抵抗低減効果、乱流統計平均量、および乱流構造に及ぼす影響を調査した。
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