研究課題/領域番号 |
20H02067
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 徹郎 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00708670)
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研究分担者 |
田口 智清 京都大学, 情報学研究科, 教授 (90448168)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子流体力学 / 光圧 / 熱泳動 / ナノ粒子 / 履歴効果 |
研究実績の概要 |
本年度は初年度であったため,計画の実験部分については,新しい設備の導入と実験系の構築が中心となった.具体的には,既に構築済みであった3種類のレーザーと倒立顕微鏡システムに,NI社製のコントローラとDAQシステムを導入し,同期計測および解析をおこなうためのLabViewプログラムを開発した.また,既存の高速度カメラに加え,高感度sCMOSカメラを導入し,テストセクションを2方向から撮影するための流路設計をおこなった.この新しい流路は,in situで高さが可変のマイクロ流路であり,高さを適切に調整することで,熱泳動と熱対流のバランスを調整することができる(現在論文執筆中).また,複数のレーザーの相対的な照射位置を調整するため,対物レンズ瞳の共役面にリレーレンズを配置し,より精密な実験がおこなえるように改造した.
計画の理論・数値解析の面では,共同研究者の田口が中心となって進めていた,球の自転にともなう流れの分子気体力学的解析がひと区切りとなり,当該分野の一流誌で論文出版にいたった(Taguchi, Tsuji, and Kotera, J. Fluid. Mech., 909, A6, 2021).この論文では,低Kn数に対する漸近解析,中程度のKn数の特性曲線法による数値解析,高Kn数に対する理論解析をおこなうことで,全希薄度において球の突発的な自転運動の開始による流れの特性の詳細を明らかにした.
研究成果の一部は,応用物理学会,日本機械学会,日本流体力学会など多岐にわたる学術講演会で発表(すべてオンライン)をおこなっている.また,アウトリーチ活動として,京都大学工学研究科付属桂インテックセンター先端流体理工学研究部門の第3回先端流体理工学研究部門公開セミナーや所属専攻(先端数理科学専攻)の公開シンポジウムなど,一般公開のシンポジウムにて積極的に成果を発信した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置にはまだ多く改良の余地があり,特に気体中の粒子操作に向けては光学系・流路設計ともに課題が残っているものの,計測・解析プログラムの開発については順調に進んでいると言える.
理論解析については,上述の発表論文がJournal of Fluid MechanicsのFocus on Fluidsで特集され国際的に高い評価を得ている.加えて,一様流中の球の回転に関する論文も順調に進んでおり,想定以上のアウトプットが期待される.
Covid-19の影響があり国際会議発表は出来なかったものの,インドのDr. A. Rana開催のセミナーやスウェーデンのProf. M. Asadzadehが開催するワークショップでオンライン発表をおこなうことで,次年度以降の国際的な活動につなげることができている.
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今後の研究の推進方策 |
【課題A:非平衡効果に起因する微小粒子に働く力の評価】初年度には,流路高さが可変であるマイクロ流路の作製と,その内部の3次元的観察系および3波長のレーザー照射が可能な光学系の構築をおこない,そのテストを進めていた.2021年度は,流路高さを系統的に変えることで,熱対流に比べ熱泳動力の相対的な強さを調節し,粒子運動の3次元的な評価を行うことを目指す. 【課題B:物体の非定常運動による分子スケール履歴効果の検証】Labviewを用いた実験制御系の構築やEM-CCDカメラの導入による高感度計測系のセットアップは初年度にある程度進んだが,気体中に微小粒子をトラップするための拡張設備の構築は仕様の検討段階で開発は未着手である.2021年度は,初年度に構築したシステムに適合するチャンバの設計を本格的に進め,微小粒子の変位計測のテストを行う計画である. 【課題C:自転微小粒子周りの流れ場と粒子に働く力の解析】初年度には,分子気体力学を用いることで,自転する微小球まわりの非定常的な流れ場の解析に成功した(Taguchi, Tsuji, Kotera, J. Fluid. Mech., 2021).2021年度は,流れ場の中の自転粒子に働く力に対し,田口を中心に数理的な切り口から深める予定である.実験については,自転させることが容易な複屈折粒子やJanus粒子の作製を検討している.
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