研究実績の概要 |
昨年度に進めていた,熱泳動と熱対流のバランスを調節する高さ可変マイクロ流路の実験結果が論文出版された(Tsuji, et al., Electrophoresis, 2021).本論文はJournal Coverにも選出された.気体中の微小粒子捕捉装置については,顕微鏡の集光レーザー下にミスト発生器と接続されたチャンバを設置し,油滴微小粒子の光圧捕捉を行う系を構築した.また,レーザー操作を行うための音響光学素子を導入し,温度場で駆動される流体現象を検出する可視化系の構築が進んだ. 理論解析では,共同研究者の田口を中心に進めていた回転球に働く揚力に関する分子気体力学的解析が論文出版にいたった(Taguchi and Tsuji, J. Fluid. Mech., 2022).この論文では,揚力の向きに対する希薄度の依存性を調べ,中程度以上の希薄度でその向きが反転することを明らかにした.一方,非平衡効果に起因する力の一種として,加熱された非対称物体に働く力に関する数値シミュレーションを行った.物体角部の有無が熱尖端流に与える影響を調べ,単純な形状の工夫で物体に働く力が2倍程度増加することが分かった(Taguchi & Tsuji, Sci. Rep., 2022). 研究成果は,日本機械学会,日本流体力学会,光科学の国際会議における一般講演およびバイオレオロジー関連の国際会議,伝熱学会,可視化情報学会,北海道大学電子研究所主催セミナー,光マニピュレーション研究会での話題提供(すべて招待講演)など多岐に渡る分野の学術講演会で発表を行った.また,Academia Sinica(台湾)で開かれたAnalysis Seminar で180分の研究発表をおこない,11月には国際ワークショップ(代表者・分担者は実行委員)にて関連分野の国際交流を深めるなど,成果のアウトプットにも力をいれている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音響光学素子を用いたレーザー操作や,温度場に起因する非平衡現象に対する可視化システムの構築は順調に進んでおり,実験系の制御部分を担うLabViewプログラムも大枠は完成している.粗削りではあるものの,いくつか興味深い実験データも取得できており,次年度の研究に向けて下地が整っている.一方,気体中の微粒子捕捉装置の開発については,気体中の実験におけるノウハウが不足しており粒子捕捉可能な条件を見いだせていない.これについてはさらなる試行錯誤が求められるため,次年度は応用物理・光科学関連の学会へ参加し情報収集を積極的におこない,早期解決を目指す.本年度のアウトプットに注目すると,それぞれ異なるテーマではあるものの,実験(Electrophoresis, 2021),理論(J. Fluid. Mech., 2022),シミュレーション(Sci. Rep. 2022)を主体としてそれぞれ1本ずつ論文出版に至っており,研究計画は総じて順調に進んでいると言える. 昨年度に引き続きCovid-19の影響を受け現地参加による国際会議発表は出来ていないものの,台湾のAcademia SinicaにおけるAnalysis Seminar,バイオレオロジーの国際会議,スウェーデンのProf. M. Asadzadehが開催するJSPS/SACワークショップでのオンライン発表,関連分野の国際ワークショップのハイブリッド開催(国内参加者のみ現地,海外参加者はオンライン)を通して,次年度以降の国際的な活動につなげることができている.国内では徐々に対面での学会・講演会参加も始めており,昨年度はいくつか招待講演も引き受けた.上記のことから,研究成果の発信としては当初の予定を十分上回って順調と言える.
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