研究課題/領域番号 |
20H02073
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
染矢 聡 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 副研究部門長 (00357336)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 燐光 / 温度 / 可視化 / 寿命 / スペクトル / 極低温 |
研究実績の概要 |
本研究では、従来開発してきた感温性燐光粒子を用いた手法を低温に拡張、任意の作動流体に適用可能な低温の温度速度同時計測法を開発する。 本研究ではまず低温で感温性を示す蛍光体や金属錯体分子を-190~0℃の範囲で探索し、低温で感温性を示す物質の特徴を見出すことにより、その温度依存性のメカニズム解明に資するデータを取得する。次に、-190~0℃の固体表面温度分布の非定常計測を±3℃の精度で実現する。更に、低温で感温性をもつ燐光物質を含有するトレーサーを合成して温度速度同時計測法を開発・最適化し、その精度・時空間分解能を向上させる。-40~0℃の低温の液体流れの温度速度同時計測を、測定レンジの1/25の温度精度で実現する。 センサ物質探索では初年度に構築した低温分光ステージを用いて、無機蛍光体および金属錯体分子、約35種類の候補物質について、発光特性(燐光強度、スペクトル、寿命)を-190~0℃の範囲で測定し、低温条件において発光特性が温度依存性を示す蛍光体・金属錯体分子を複数発見した。発光スペクトルのデータを分析し、強度法、寿命法、二波長強度比法を適用可能なセンサ物質を特定した。 低温の固体表面温度分布の非定常計測では、-100℃まで温度を下げることができる試験装置の構築に成功し、395nmのLED光源を用いて温度分布の過渡変化を可視化計測した。有機の金属錯体、無機蛍光体という、物質特性の全く異なるセンサ物質を用いてそれぞれ計測に成功した。低温液体流れについては流動試験装置の設計を行い、製作に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
-190~600℃の範囲で利用できる温調ステージを準備し、励起光源(紫外線355nm)、分光器、光電子増倍管などを設置して光学特性評価システムを構築した。これを用いて、無機蛍光体34種類、有機の金属錯体4種類の物質の燐光強度、スペクトル、寿命を-190~室温の範囲で評価した。無機蛍光体は粒子状物質であるため直接評価した。金属錯体分子はそれぞれに適した溶媒に溶かして吸着性の高い粒子に吸収させ、焼結することで感温粒子を作成して評価に用いた。候補としたほぼ全ての物質が感温性を示し、温度が低下するほど発光強度が強くなった。0℃から-190℃の温度変化に対して、二倍以上に発光強度が強くなった物質が、無機蛍光体6種類、金属錯体4種の10種見つかった。(Ba,Ca)10(PO4)6・Cl2:Eu、Mg2TiO4:Mn、MFGなどは二色発光強度比を用いた温度評価にも適用できることがわかった。寿命については、一部の蛍光体では温度依存性が見られなかった。一般的にクエンチ温度以下では寿命が温度依存性を示さないと言われているが、発光強度が強くなったにも関わらず、寿命が変化しない理由など、物理的メカニズムがわからないものもあり、今後更に特徴を評価、検討する。金属錯体分子については発光強度が平均で-5%/℃変化したものもあり、発光強度、寿命とも強い温度依存性を示した。低温の冷凍機冷媒や極低温液体に対しては、これらの有機金属錯体は必ずしも利用できないため、反応性の低い無機蛍光体と金属錯体の両方について引き続き調査する。 発見した感温性物質を用いて、マイナスの温度の流体の二次元温度速度分布同時計測を実現した。有機・無機の複数種類のセンサ物質を用いて低温の表面温度分布計測に成功した。低温液体流れ試験用の装置を設計し、製作・試運転を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
高い感温性を示した有機金属錯体分子を、高分子中にドープし、中空マイクロカプセルを合成する。カプセル殻となる高分子樹脂、溶媒、分散媒の種類や粘度、合成温度、分散媒に添加する界面活性剤などがパラメータとして考えられるが、これらを適宜調整してカプセル合成法を最適化する。次に、-40~0℃の低温の液体流れの温度速度同時計測手法の確立と精度評価を行う。既に低温液体流れ試験用の装置を設計し、製作・試運転を開始したため、試運転と装置の調整をすすめる。 本研究では、開発した手法を用いていくつかの代表的な流れ場で流れの温度,速度,乱流統計量を測定して乱流モデルの高度化に繋がるベンチマークデータを取得することも計画している。
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