研究課題/領域番号 |
20H02075
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
瀬戸浦 健仁 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (90804089)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズモニクス / プラズモン / 光熱変換 / 遷移金属窒化物 / MEMS |
研究実績の概要 |
本研究では、光照射によって微小領域を選択的かつ高効率に加熱することが出来る、マイクロ熱反応器を作製することを目的としている。この実現の鍵となるのが、光を高効率で熱に変換する「熱プラズモニクス材料」である、遷移金属窒化物のナノ粒子である。高効率な光加熱のためには、窒化チタンまたは窒化ジルコニウムのナノ粒子が適していることが、数値計算などによりこれまで示唆されている。本研究の実施期間は3年間である。本研究は1)遷移金属窒化物の熱プラズモニクスの学理解明、2)アレイ化によるマイクロ熱反応器の作製、そして3)マイクロ熱反応器の応用展開の3段階で構成され、各段階をそれぞれ1年間で実施する計画である。 初年度である本年度は、1)遷移金属窒化物の熱プラズモニクスの学理解明に取り組み、十分な成果が得られた。「熱プラズモニクス材料」のナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴という光アンテナ効果によって、サイズや形状に依存して、光発熱の効率が大きく変化する。この発熱効率のサイズおよび形状依存性を定量的に解明するために、サイズが50~300 nmの単一のナノ粒子を光学的に観察可能な、光学顕微鏡を用いたイメージングおよび分光計測の実験システムを構築した。このシステムを用いて、種々のサイズ・形状のナノ粒子を実際にレーザー照射により加熱して、数値シミュレーションの結果と比較することで、直径が 50~200 nm程度のナノ粒子であれば、マイクロ熱反応器中の微小熱源として適することが分かった。また遷移金属窒化物のナノ粒子は、1400℃以上の高温でも表面融解による形状の変形が見られず、従来からよく用いられている金ナノ粒子と比較して高温時の安定性が高いことを実験的に明らかにした。研究成果は現在、原著論文として投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず、光学顕微鏡をベースとして、単一ナノ粒子のイメージングおよび分光計測、そして単一粒子へのレーザー照射を行うための実験光学系を構築した。これにより、ガラス基板上に分散された単一のナノ粒子の、局在表面プラズモン共鳴に由来する散乱スペクトルの計測が可能となった。計測したナノ粒子の散乱スペクトルから、ナノ粒子のサイズおよび形状を評価するためには、電磁場の数値シミュレーション結果と比較する必要がある。このために、境界要素法による電磁場計算のためにソフトウェア(Matlab)を導入し、計算が実行できる環境を構築した。これらの実験および計算結果の比較から、窒化チタンおよび窒化ジルコニウムナノ粒子の光学特性および光発熱特性を評価することができた。コロナ禍のために必要な光学部品が納期未定となり、直接経費の一部を繰り越したが、本年度の研究目標はおおむね達成されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は1)遷移金属窒化物の熱プラズモニクスの学理解明、2)アレイ化によるマイクロ熱反応器の作製、そして3)マイクロ熱反応器の応用展開の3段階で構成され、各段階をそれぞれ1年間で実施する計画である。次年度である2年目は2)アレイ化によるマイクロ熱反応器の作製に取り組む予定である。 初年度の研究結果から、市販の窒化チタンおよび窒化ジルコニウムのナノ粒子は、サイズおよび形状のばらつきが著しく大きく、光加熱のために最適なサイズ・形状のナノ粒子が含まれる割合が低いことが分かっている。これを改善するために、フィルター濾過や遠心分離などを駆使して、ある程度はサイズ・形状が揃った状態のサンプルを用意する必要がある。過去の光ピンセット技術を利用したナノ粒子の選別実験の経験から、フィルター濾過および遠心分離を行えば、十分なサンプルが用意できると予想している。もし市販サンプルのサイズ・形状のばらつきを改善することが難しい場合は、バルク材からナノ粒子を生成できる設備および技術を有する国内の研究者に協力を仰ぎ、サンプルを入手するなどの対策を検討している。 2年目のメインである2)アレイ化によるマイクロ熱反応器の作製は、光ピンセット光学系を作製し、光発熱特性に優れるサイズおよび形状のナノ粒子を2次元アレイ的に配置し、マイクロ熱反応器を作製する。
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