研究課題/領域番号 |
20H02078
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 秀昭 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (30170343)
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研究分担者 |
早川 晃弘 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (90709156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高圧燃焼 / 乱流燃焼 / 液体アンモニア / アンモニア水溶液 / 噴霧燃焼 |
研究実績の概要 |
本研究では,CO2を排出しない無機燃料である液体アンモニア(NH3)ならびに質量濃度47%までのアンモニア水溶液の高温高圧下における直接噴霧燃焼を実現し,減圧沸騰蒸発過程を有する噴霧燃焼の現象解明を行う.ガスタービン燃料としての活用に向け,液体アンモニア噴霧燃焼をレファレンスとしてアンモニア水溶液の噴霧燃焼研究を行うことで,新しいカーボンフリー燃焼の学理構築に資する.令和2年度は初年度であり,接線スワーラを内蔵した燃焼器を設計製作した.この燃焼器は高圧容器内に設置できる構造としている.液体アンモニア供給系は圧力約0.9MPaのサイフォン型アンモニアボンベから液体アンモニアを取り出し,概ね0℃の冷却水を循環させた二重管によって低温度を保ったままマスフローコントローラで流量調整し,さらに燃焼器中心の燃料噴射弁まで冷却しながら供給する仕組みとなっている.アンモニア水溶液は試薬として入手できる質量濃度30%のものを用い,窒素ガスで加圧して供給した.燃焼器は空気供給部にスワール数の大きい接線流スワーラを内蔵している.予備実験によると,気体アンモニア燃焼器で用いてきた軸流スワーラでは燃焼器内部の再循環流が弱く液体アンモニア火炎の安定化が困難であったことから接線流スワーラを用いることとした.空気流は電気ヒーターにより700 Kまで予熱できるようにしている.これによって液体アンモニアおよびアンモニア水溶液の大きな蒸発潜熱を補う熱供給を行う.計測ではNd-YAGレーザーによるレーザートモグラフィー,ダブルパルス発信を用いたPIV計測を行った.また,空気予熱温度を調整することによって大気開放系における液体アンモニア噴霧およびアンモニア水溶液噴霧の燃焼試験を行うとともに,噴霧中心温度計測,燃焼器出口部における燃焼ガス濃度計測を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は,はじめに大気開放系においてスワールバーナの中心部から液体アンモニアならびにアンモニア水溶液を噴射する試験を実施した.液体アンモニアの蒸発潜熱は低位発熱量の7%と大きく,アンモニアのp-h線図から,大気圧環境では減圧沸騰蒸発によって温度が-40℃程度まで低下することが予想された.そこで,500 Kまで空気予熱を行った条件でK熱電対によって燃焼器中心軸上の温度分布を計測したところ,非燃焼場においてノズル出口付近で-40℃以下にまで温度が低下することが確認できた.ただし高さ50 mm程度以上の領域では温度が室温以上に上昇し一定値となった.このような低温条件ではアンモニア噴霧火炎の安定化が難しいと危惧されたが,空気流にメタンを混合させたメタン混焼条件では,空気予熱を行わない場合でも液体アンモニア噴霧の安定化に成功し,質量濃度30%のアンモニア水溶液噴霧火炎も安定化させることができ,メタン混焼が有効であることが確認できた.さらに,液体アンモニア専焼を試み,空気を600 Kまで予熱させた条件において液体アンモニア噴霧火炎の安定化に成功した.これらのことから,液体アンモニアの蒸発潜熱を補うメタン火炎の発熱あるいは空気予熱によって液体アンモニア噴霧燃焼が可能であることが明らかとなった.メタン混焼に対して総当量比に対するアンモニア噴霧火炎の安定範囲を測定し,全発熱量に対するアンモニアの発熱量割合が増大するにつれて火炎安定範囲は狭まるが,総当量比が概ね0.8から1.2の範囲で安定化可能であることが分かった.さらにバーナ出口部における燃焼ガス組成を測定した結果,希薄側でNO濃度が大きく,過濃側で未燃アンモニア濃度が大きいこと,両者が同時に小さくなる条件が総当量比1.03付近にあり,Rich-Lean二段燃焼により低NOx化が可能であることが示唆される結果を得た.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は大気開放系における液体アンモニア噴霧火炎ならびにアンモニア水溶液噴霧火炎の安定化に成功したが,液体アンモニアの噴霧特性,とりわけ減圧沸騰蒸発が噴霧燃焼と火炎の安定化にどのように影響しているかが明らかにされていない.そこで令和3年度は,この燃焼器を用い液体アンモニアおよび高濃度アンモニア水の噴霧過程を詳細に観測する.非燃焼条件の液体アンモニア噴霧の詳細な観測と噴霧粒径を計測し,減圧沸騰蒸発が起きにくいアンモニア水溶液との噴霧形成過程の違いを明らかにして噴霧燃焼への影響を考察する.その結果を基に,数値解析との比較が比較的容易な水素と混焼させた場合のアンモニア水噴霧の火炎安定化を図り,液体アンモニア噴霧との保炎範囲の違いを明らかにする.また燃焼器を高圧容器内に設置し,圧力5気圧までの高圧環境下での噴霧観測と保炎実験を行う.レーザー計測に関しては,アンモニア火炎の発熱帯とよく一致するNHラジカルの分布計測を行うためのNH-PLIFシステムの構築を行い,NH-PLIF撮影試験を大気開放系および高圧容器内で実施する.OH-PLIFとの同時計測も見据えた計測系の高度化も図る.噴霧燃焼では噴霧液滴のミー散乱が信号強度の弱いLIF の妨げになることが知られているので,ミー散乱光を除去できる干渉フイルター,ローパスフィルター等の組み合わせに工夫を加え,S/N比の高いPLIF画像が撮影可能になるようする.さらに,NOx計測ならびに未燃アンモニア計測の準備を行い,最終年度の詳細な燃焼ガス計測に備える.
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