研究課題/領域番号 |
20H02083
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齊藤 卓志 東京工業大学, 工学院, 准教授 (20302937)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 界面熱抵抗 / 非相溶 / 高分子材料 / 熱拡散率 / 分子動力学 |
研究実績の概要 |
高分子材料中の伝熱は,主として高分子鎖に沿ったフォノン伝導によるため,異なる材料間の界面において熱抵抗が発現する可能性がある.研究代表者はこれまで,実験的に異種高分子材料界面における熱抵抗を自作の測定装置により計測してきたが,より定量性を持ったデータの取得が「革新的な断熱材」の開発に不可欠である. そこで2020年度は,温度波法による熱拡散率測定装置を購入し,供試材料として互いに非相溶のポリスチレン(PS)とポリメチルメタクリレート(PMMA)を選定した.メルトプレスにより得た2層積層材料を試験体とし,界面熱抵抗は2層構造を模擬した非定常熱伝導解析より算出した.具体的には,異なる界面熱抵抗が存在する場合の試料全体の見かけの熱拡散率を非定常熱伝導解析により計算し,実験結果との比較から界面熱抵抗を逆推定した.さらに,逆非平衡分子動力学(RNEMD)法により界面熱抵抗を推定した.温度制御法と圧力制御法はNose-Hoover法とParrinello-Rahman法を採用し,周期境界条件を全ての境界に適用した.RNEMD法により計算領域に生じた温度分布データに基づいて,材料の熱伝導率と界面熱抵抗を計算した. 実験結果から,PS/PMMA界面の熱抵抗は10^-5 m^2 K/Wより小さいという知見を得た.ただし,二層試料では微小な界面熱抵抗を精度よく検出することが難しく,精度の向上のため,界面数を増やす必要があると判断した.次に,PSとPMMAの界面熱抵抗をRNEMD法により推定した結果,両材料の分子量が約3,000の場合,界面熱抵抗は2.9×10^-9 m^2 K/Wとなった.また,分子量の増加により界面熱抵抗が低下する傾向が得られた.これは,分子量が小さいほど,単位体積内の分子末端の数が増加し,分子間のフォノン伝導の散乱率が増加したためと解釈した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核心をなす学術的「問い」の一つである「異種高分子材料の界面における熱抵抗の大きさ」について,限られた材料組み合わせ(PSとPMMA)ではあるが,温度波法による実験的測定と分子動力学に基づくシミュレーション推定の両面から定量的評価を進めることができた.また,界面熱抵抗を利用した「革新的な断熱材」の開発につなげるため,界面の導入数を増やす,あるいは界面の接触構造に工夫を加える,などの新たなアイデアを持つに至った.よって,研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の核心をなす学術的「問い」の二つ目として挙げる「分子レベルにおいて界面熱抵抗の大きさを支配する要因」を明らかにするため,PS/PMMAの組み合わせ以外にもRNEMD法により界面熱抵抗の推定を行う.界面熱抵抗の大きさを支配する要因を解析する指針として,樹脂材料同士の親和性の評価指標の一つであるSolubility Parameter(SP)値が考えられる.また,界面近傍に存在する分子の平均自乗変位を評価軸とすることもできる.これらの検討を通して,より大きな界面熱抵抗を発現し得る材料組み合わせを検索し,最終的には異種材料界面に発現する熱抵抗を簡便に推定する指針を得ることを目指す. また,2020年度の結果において,分子量の減少により界面熱抵抗が増加する傾向が見られたため,この点に関する検討もRNEMDによるシミュレーションで進める.特に,分子量低下によるガラス転移温度の低下は,高分子材料の成形加工性に大きく影響するため,より大きな熱抵抗を発現し得る分子量レベルの見極めを慎重に行う. さらに,RNEMDにおいて,分子相互拡散領域を強制的に厚く設定することが与える界面熱抵抗への影響も検討する.これは材料間界面にナノインプリントにより微細な凹凸構造を導入した状況に相当すると考えられ,このようなアプローチによる界面(層)の拡大が与える界面熱抵抗への影響を評価する.
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