研究課題/領域番号 |
20H02086
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井上 修平 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (60379899)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 界面 / イオン拡散 / 熱力学 |
研究実績の概要 |
界面でのイオンの移動現象を実験的、理論的に解明するための研究を遂行中である。当該年度は理論的アプローチにより二層薄膜のうち一方でのマグネシウムイオンの拡散障壁に関して検討した。検討対象の薄膜はスズ・マグネシウム合金の酸化物で、実験的に得られる薄膜は結晶でないことが分かっているが、簡単のためまず組成比が近いMg2SnO4の結晶構造をモデルとして採用した。 Quantum ATKを用いたシミュレーションを行い全てオンラインの会議ではあったが、結果を日本機械学会熱工学部門主催の熱工学コンファレンス、日本機械学会マイクロナノ部門主催のマイクロナノ工学シンポジウム、Joint Conference on Renewable Energy and Nanotechnology 2020、International Symposium on Fuel and Energy 2020のなど、4つの国内、国際会議で発表した。 シミュレーション結果によると結晶中のマグネシウムイオンが別のマグネシウムの空孔へと拡散する際の障壁はおよそ1.43 eVであることが得られた。 一方、実験的な研究に関してはイオンの拡散抵抗を見積もるためインピーダンス法により薄膜中の抵抗成分を検討した。成膜した薄膜に適切なプローブを作成し計測したが、機器の仕様により高周波側まで測定することができなかった。測定できた周波数域ではよく見られる半円の形状を示しているが一つの半円しか確認できていない。界面インピーダンスとバルクインピーダンスの成分が確認できるはずで、現時点では測定周波数域が不足しているため片方しか確認できないのか、それとも別の理由があるのかに関しては不明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2007年に中澤らによりマグネシウムとスズの合金酸化物に強い紫外線を照射したところ、フォトクロミズムと呼ばれる可逆的な着色現象を示すとともに蓄電性能が発現すると報告された。しかし、フォトクロミズム電池の蓄電原理は明確に解明しておらず大きなエネルギー密度をもつとされる本材料は未だに実現に至っていない。これまでの研究からマグネシウム、スズの酸化物薄膜単独ではなく、透明電極として準備されている下層のITO膜との界面現象であることが示唆され、XPS解析からマグネシウムイオンの拡散も確認されている。そこでMgイオン拡散が現象解明の鍵となると予想している。 これらを明らかにするためまずQuantum ATK及びワークステーション2台を導入した。最終的には界面での挙動が重要になるが、まず片側のスズ、マグネシウム酸化物中でのイオンの拡散挙動を検討した。実験的に合成される薄膜はアモルファスで有り結晶構造を示していないことがXRDの結果から分かっているが、まず簡単のため単位結晶を計算系として採用した。結晶中のマグネシウムイオンが点欠陥へと拡散していく場合の拡散障壁に関して見積もることに成功した。 実験に関してはインピーダンス法により薄膜中の抵抗成分を検討した。成膜した薄膜に適切なプローブを作成し計測したが、測定周波数域が不足していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
計算の負荷の問題から単純な系でのシミュレーションを行ったが、実験的に得られるサンプルを考えると結晶構造ではなく、構造を崩したアモルファス形状のようなもので計算を行うことが必要であると考えられる。また現時点では単一のユニットセルを用いているため計算系の中における欠陥の割合が大きすぎること、また拡散するイオンにより構造緩和が起こる際に過大な緩和が起こることが懸念される。次年度ではスーパーセルを用いることでイオン拡散による周囲の構造緩和の影響を少なくすることと、分子動力学などの手法により結晶構造を持たない初期構造を作成し、それをユニットセルとする事でアモルファス形状に近い環境でのシミュレーションにより拡散障壁を見積もる。またコバルト酸リチウムなどでも同様の計算を行い既存のリチウムイオン電池に比べてどの程度の拡散障壁が変化するのかを定性的に検討する。 実験に関しては高周波まで測定できるインピーダンスアナライザーを導入し、今年度に引き続き特性を検討する。
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