インジウム錫酸化物(ITO)基板上に成膜したマグネシウム錫酸化物(MTO)に紫外線を照射すると、フォトクロミズムが発現して黒く着色し、同時に蓄電性能が示唆された。これを本研究ではフォトクロミズム電池と呼ぶ。これまでの研究によって、ITO還元モデルを提案している。ITO還元モデルでは、紫外線照射によりMTOで電子が励起され、MTOの伝導帯下端よりITOの伝導帯下端の方が低いため電子がMTOからITOに移動し、ITOが還元されて金属インジウムが析出し黒く着色する。この時、電気的な釣り合いを保つために、電子の移動のカウンターイオンとしてMgイオンもMTOからITOに移動していると考えられ、そのためにはMTO中でMg原子拡散が起こる必要がある。昨年度はMTO結晶中のMg原子の活性化エネルギーが算出された。空孔機構、格子間機構、スピネル構造の隙間を通る拡散の3経路について調べたが、計算系が1単位格子であり、空孔機構において1つのMg原子欠陥が非常に大きな影響を与えていることが予想される。よって検討の余地があると判断した。今年度は、複数の単位格子を1つのユニットセルとするsuper cellを用いて、Mg原子欠陥の数によってMg原子の活性化エネルギーがどのように変化するのかを調べた。また、比較対象としてリチウムイオン電池の陽極としてよく用いられているコバルト酸リチウムを採用し、MTO結晶中のMg原子の活性化エネルギーとコバルト酸リチウム結晶中のLi原子の活性化エネルギーを比較して評価した。
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