昨年度までは,本研究で開発してきた炭素繊維強化複合材の曲線状の繊維形状を最適に設計する手法を工学で広く用いられる殻(シェル)構造へ拡張した.本年度は,数値計算の精度及び最適化結果の妥当性評価のために複合材の供試体を作製し,実験による評価を行った.作製の手順は以下の通りである.平面上で縫付したプリフォームを電着樹脂含浸法により成形し,金型によって半円筒シェルへ硬化成形した.シェル構造における曲線状繊維形状の板厚分布の影響を調査したところ,従来の板厚推定を行うことで実測板厚の予測が大まかに把握できたが,数値解析による振動特性の予測精度は高くなかった.よって曲面成形時の板厚変化を計算で考慮する必要があることがわかった.第3次と1次固有振動数の最小化を目的として最適化を行った結果得られた繊維形状に関しては,モード形状や振動数の傾向が実験と計算で概ね一致しており,本研究で用いたシェル構造の最適化手法の適用可能性を示すことができた. 効率的な最適設計手法として昨年度まで開発していた逐次近似最適化法を改善した.昨年度までは放射状基底関数(RBF)により代理モデルを作成していたが,こちらを目的関数の分散も計算可能であるガウス回帰過程(GPR)に置き換えた.数値実験の結果,改良により探索性能が向上することが確認できた. 電着により作製した複合材の電気的特性の調査も行った.セルロースナノファイバー(CNF)をCFRPに挿入することで,複合材の曲げ強度を著しく損なうことなく,静電容量を確保できることが確認できたため,将来的に構造用コンデンサが実現される可能性が示唆された.
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