研究課題/領域番号 |
20H02103
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
及川 靖広 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70333135)
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研究分担者 |
矢田部 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (20801278)
池田 雄介 東京電機大学, 未来科学研究科, 助教 (80466333)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光学的音響計測 / 偏光高速度干渉計 / 音場 / 音源 / 最適化信号処理 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,偏光高速度カメラを組み込んだ干渉計を用いた光学的音響計測手法を適用し音源に近接した空間の音場の計測法を確立し,その振る舞いをミクロに計測可能にする。それを基に音源を音響現象として記述することにより音源と音場を統一的に扱う手法を確立することを目指している。 本年度は、まず偏光高速度干渉計の高度化による計測対象の拡張に取り組んだ。2kHzの波長(約17cm),70dBの音圧の音を可視化計測可能とすることを目標に据え,ハードウェアとソフトウェアの両面からその高度化に取りかかり計測対象の拡張を実現した。具体的には、以下の課題について取り組んだ。 (1)光学系の拡大と位相歪の調査,その影響の補正:撮影領域が直径200mmの円内となるように光学系を開発し,可視化領域を拡大したシステムに拡張した。その際,干渉計測において主な誤差要因となりうるレンズやミラーなどの光学部品の精度(位相歪)が干渉計測の精度に与える影響をシミュレーション,実験によって明らかにした。その結果に基づきそれらを補正する信号処理手法を提案,実装した。 (2)振動による影響の除去:高速度カメラのファン停止などのハードウェアの対処を施し振動に起因する成分を極力減少させ,さらにソフトウェア(信号処理)でのノイズ除去対処を検討した。記録された位相情報から時間変動する音に関する成分のみを抽出し,振動によるノイズを低減した。測定対象が音であることに鑑み,音の物理モデルである波動方程式に基づいて測定結果を物理現象と矛盾することのないものにするアルゴリズムを導出し,数値実験や実測実験を行い,提案アルゴリズムの有効性を明らかにした。その結果,20dBのノイズ低減を達成し,約70dBの音圧の音を可視化計測可能なシステムを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り本年度は,偏光高速度干渉計の高度化による計測対象の拡張に取り組んだ。ハードウェアとソフトウェアの両面からその高度化に取りかかり,その結果2kHzの波長(約17cm),70dBの音圧の音に対して可視化計測可能とすることができた。 具体的には,干渉計測において主な誤差要因となりうるレンズやミラーなどの光学部品の精度(位相歪)が干渉計測の精度に与える影響をチェッカーパターンを用いた実験と数値計算によって明らかにし,それらを補正する信号処理手法を提案,実装した。また,高速度カメラのファン停止などのハードウェアの対処を施し振動に起因する成分を極力減少させ,さらにソフトウェア(信号処理)を用いて記録された位相情報から時間変動する音に関する成分のみを抽出し,振動によるノイズを低減した。さらに,そのシステムを用いて,音響中心推定のための実験,カスタネットシェル内部の音場と放射音の解明のための実験,水中音波可視化と水中の温度推定のための実験,口笛を対象とした口元の音の収録のための実験等を行い,可聴音から超音波までの幅広い帯域で可視化計測できること,その可視化計測結果に基づき様々な物理的パラメタを推定できることを確認することができた。 以上、システムの高度化とそれを用いた基礎的な実験など,当初予定していた実施計画をほぼ達成するとともに,次年度に抜けての課題を確認することができた。それら成果を学会,論文等で発表した。したがって、本研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は本年度の成果をさらに発展させ,より高度な手法による光学的な歪の補正,既存技術による測定との比較と計測機器として重要となる校正方法の確立を目指し,以下のことを実施する計画である。 (1)位相歪を補正可能とする手法として位相共役光等を用いた光学補償を検討する。位相共役光発生における応答時間を利用することにより,音による光の位相変化に影響を与えることなく時間的に変化しない光学部品が影響を与える位相歪のみを除去する。 (2)計測機器として重要となる校正方法を検討する。本計測システムは音場の計測を行うものであるので,音圧,周波数のみならず,波面,波数に関する校正も重要である。理論的に明確な球面波や平面波を用いた校正用音場を提案し,その生成,それを用いた校正方法を確立する。 (3)導入した光学技術や信号処理を有効なものとするには,各種パラメータを適切に選ぶ必要があると予想される。処理の過程での非線形現象を効率的に発生させるための条件や最適化に表れるハイパーパラメータを適切に選ぶための決定条件を明らかにする。 得られた結果を取りまとめ,国際会議での発表,論文の投稿をする。また,研究談話会を開催し,関連研究者への情報提供と交流の場を設ける。
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