研究課題/領域番号 |
20H02125
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野口 聡 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (30314735)
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研究分担者 |
金 錫範 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (00287963)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超高磁場 / 超伝導マグネット / 無絶縁巻線技術 / フラックス・ポンプ |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1) 熱、応力、電磁界連成シミュレーション手法の開発を実施した。REBCO超伝導線は、800MPaの引張り応力でハステロイ基板から超伝導層(REBCO層)が剥離し、破損することが知られている。通常の設計では、当然、この応力値を下回るように設計するが、予期せぬ電流(遮蔽電流や誘導電流)により、フープ力がこの閾値である800 MPaを超えていることが実験結果から明らかになってきた。そこで、熱、電磁界連成シミュレーションを開発し、シミュレーションにより現象を確認した。また、精確な遮蔽電流分布が特に必要なことが改めて確認され、無絶縁巻線コイルも考慮できる新しい遮蔽電流解析技術の開発に着手した。 2) 誘導電流低減の電磁機構“Magnetic Dam”を提案した。超伝導コイルの内側と外側に、メインコイルから絶縁された無絶縁巻線超伝導巻線を数ターン配置することで、大幅に誘導電流を低減できることをシミュレーションで明らかにした。銅コイルだけでは、低減できないことも明らかにした。 3) 多層テープ線による巻線間電気抵抗制御として、巻線間抵抗増加メカニズムをシミュレーションにより明らかにした。この中で、巻線間の金属テープ(ステンレス・テープ)の数を増加させることで、巻線間電気抵抗制御が可能であることをシミュレーションで明らかにし、実験的検証にも検証した。また、先行研究で提案してきた低周波交流通電法による接触抵抗測定を、外部磁場印加時に実施し、提案法の有効性を示した。 4) 無絶縁REBCOマグネット用の新しいフラックス・ポンプの開発として、励磁遅れを緩和させるためのフィルタ・インダクタンスの検討を実施した。シミュレーションにより、無絶縁マグネットに適用するために必要な巻線間接触抵抗値を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請科研費の大きな研究項目として、(1)熱、応力、電磁界連成シミュレーション手法の開発、(2)誘導電流の低減の電磁機構の開発、(3)巻線間電気抵抗の制御および測定、(4)無絶縁REBCOマグネット用のフラックス・ポンプの開発がある。初年度は、主に項目(1), (3), (4)に進める予定であった。項目(1)に関しては、概ね予定通りの進展であったが、新たに高精度な遮蔽電流解析技術の開発が必要であることが分かった。次年度に追加実施する予定である。項目(2)は初年度に実施しない予定であったが、コロナ禍で項目(4)の進展が困難であったため、代替として項目(2)を前倒しして始め、成果を得ることができた。項目(3)は概ね予定通りの進展であった。項目(4)は、フラックス・ポンプのシミュレーションに関しては予定通り実施できた。しかし、実験の準備・検討に関する進展は遅れている。岡山大学で実験を実施予定にしているが、コロナ禍で岡山大学を訪問できず、十分な検討・議論を重ねることができなかった。さらに、新型コロナなどの理由でREBCO線材業者も生産が遅れている。 次年度以降も項目(1)から(3)に関しては、引き続き予定通り実施する。ただし、一部、叙述した追加課題(高精度な遮蔽電流解析技術の開発)も実施する。項目(4)は、遅れているため、早い段階で申請者が岡山大学を訪問し、開発コイルの概要を決定し、次年度内に遅れを取り戻すことに注力する。 以上のように、コロナ禍の影響を受け、進展が遅れている項目もあるが、コロナ禍の影響を受けない項目を前倒し開始したことで、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、項目ごとに以下の実施計画を立てている。 (1)これまで進めてきた熱、応力、電磁界連成シミュレーション手法の開発を引き続き実施する。高精度な遮蔽電流磁場解析手法の開発の必要性が新たに判明したので、注力して進める。また、2021, 2022年度に予定していた開発済みの超高磁場マグネットの事例検証を実施し、機械的ダメージのメカニズムを明らかにする。 (2)誘導電流の低減の電磁機構の開発では、予定より早く実施し、2021年度に実施予定であったシミュレーションをすでに完了した。本来は、2022年度に実施予定であった実験検証を2021年度に岡山大学で実施する。ただし、想定より大規模な実験となる可能性がシミュレーションにより明らかになった。その場合は、2022年度に米国国立高磁場研究所(フロリダ州立大学)で実施することも検討する。 (3)巻線間電気抵抗制御・測定に関しては、すでに多層テープ技術を開発し、シミュレーション、測定ともに終えた。今後は、低周波交流通電法による接触抵抗測定を、外部交流磁場印加時や交流電流通電時などの様々な状態で実施し、提案法の有効性を確固たるものにする。 (4)(4)2021年度前半に、フラックス・ポンプ用コイルの設計を実施し、後半に基礎実験を実施する。本年度にシミュレーションで検討した、フィルタ・インダクタンスとの相関を実験で確認し、最終年度に向けたフラックス・ポンプ用コイル設計条件を確認していく。実験は岡山大学で実施予定であるので、2021年度早々に実験予定、実験手順などの策定に入る。
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