研究課題/領域番号 |
20H02133
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
市來 龍大 大分大学, 理工学部, 准教授 (00454439)
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研究分担者 |
立花 孝介 大分大学, 理工学部, 助教 (10827314)
金澤 誠司 大分大学, 理工学部, 教授 (70224574)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プラズマ窒化反応 / NHラジカル / 大気圧プラズマ / レーザー誘起蛍光法 |
研究実績の概要 |
○ LIF実験系の構築 NHラジカルおよびNH2ラジカルの励起が可能な光パラメトリック発振(OPO)レーザーを選定し,購入した.これを可動式の架台に設置し,NHの励起波長として過去に採用されている300~350 nm付近の紫外線パルスレーザーを5 mJ程度のパルスエネルギーで出力するよう調整を行った.また,プロジェクトの後半で実施予定のNH2ラジカルの励起のため,600 nm付近のレーザー発振についても確認を行った.ミラー等の各種光学系を配置・調整し,後述する大気圧プラズマ生成・観測系へ紫外線パルスレーザーを照射するための実験系を構築した. ○ 大気圧プラズマ生成・観測系の構築 パルスアーク型プラズマジェットを大気圧下の窒素/水素混合ガス中に発生させ,石英窓を通してジェットプルーム中にOPOレーザーを照射し,レーザー照射部からの蛍光を側面から分光器およびICCDカメラで観測するための専用プラズマ生成・観測チャンバーを設計し作製した. ○NHラジカル蛍光の観測 ディレイジェネレータおよびオシロスコープのトリガー機能を併用することで,約21 kHで動作するパルスアーク放電と約10 Hzで動作するOPOレーザーのタイミングの同期を達成した.これにより,パルスアーク放電の点火から任意の時間後にレーザーを照射し,蛍光を観測できる実験系が完成した.パルスアーク放電点火直後にジェットプルーム中に305.05 nmのレーザーを照射し,レーザーがプルーム中を通過するタイミングで発光分光計測を行った結果,約336 nmの蛍光を観測した.しかし,同様の条件において306 nmや310 nmのレーザーを照射した場合,336 nmの発光は発生しなかった.これらの結果から,我々は世界に先駆けて大気圧プラズマ中のNHラジカルの基底種をLIF観測することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OPOレーザーの選定・購入に続き,NHの励起波長として過去に採用されている300~350 nm付近の紫外線パルスレーザーを5 mJ程度のパルスエネルギーで出力するよう調整し,プロジェクトの後半で実施予定のNH2ラジカルの励起のため,600 nm付近のレーザー発振についても確認ができた.ミラー等の各種光学系を配置・調整することで,大気圧プラズマ生成・観測系へ紫外線パルスレーザーを照射するための実験系が完成した. 上記の作業と並行して,パルスアーク型プラズマジェットを大気圧下の窒素/水素混合ガス中に発生させ,石英窓を通してジェットプルーム中にOPOレーザーを照射し,レーザー照射部からの蛍光を側面から分光器およびICCDカメラで観測するための専用プラズマ生成・観測チャンバーの作製も完了した. さらに,パルスアーク放電とOPOレーザー照射のタイミングの同期を達成した.以上の実験系を同時に使用し,ジェットプルーム中に305.05 nmのレーザーを照射することで,約336 nmのNHラジカルからの蛍光を観測することに成功した.申請者の知る限りでは,この成果は大気圧プラズマ中のNHラジカルの基底種をLIF観測した初めての例である. OPOレーザーの選定および入札までは当初の予定通り進行したものの,コロナ禍のためヨーロッパからのレーザー装置の輸入およびレーザー技術者の派遣が大幅に遅れた.しかしながら,国内で手に入る他の装置群を事前に準備し,レーザーが立ち上がり次第早急に専用の実験系を立ち上げられるように対策をしたことにより,上記の計画の遅れを取り戻すことに成功し,最終的にLIF実験系の完成およびNHラジカルからの蛍光観測の達成がなされた.
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今後の研究の推進方策 |
○ NHラジカル蛍光のプラズマパラメータ依存性の調査 レーザー誘起蛍光法により得られる蛍光強度はNH密度に比例すると考えられるため,蛍光強度のプラズマパラメータ依存性を調査することにより,NHの生成・消滅の素過程を考察するうえでの重要な情報が得られる.プラズマパラメータとしては,窒化用プラズマで最も重要な動作ガスの窒素ガス-水素ガス混合比,およびプルーム位置(特にジェットノズル先端からの距離)について体系的に調査する. ○ NHラジカル蛍光強度との窒素原子ドーズ量の相関の調査 上記プラズマジェットプルームを鉄鋼試料に数時間照射する.その結果,プラズマ中から試料表面へ窒素原子が熱拡散しドーピングされる.このときドーピングされる窒素原子の量と,レーザー誘起蛍光法により得られたNH蛍光強度の相関を調査し,NHラジカルの窒素ドーピングへの寄与およびその効率を調査する.窒素原子拡散係数は媒質である鉄鋼試料の温度に強く依存するため,試料温度はプラズマジェットではなく外部加熱系により制御する必要があり,まずは専用の加熱系を設計・作製する. ○ 窒素原子検出系の構築 プラズマジェット中に存在する窒素原子の検出を目指す.このため,大気圧雰囲気から微量ガスをサンプリングし,各粒子を差動排気系を介して高真空領域へと誘導し,最終的に四重極質量分析器によって特定の粒子種のみを検出する系を設計・構築する.完成後は,まずは大気圧下に存在する安定粒子種の検出を試みる.次に,大気圧プラズマジェット内に存在する安定粒子種を検出し比較する.その後,窒素原子にターゲットを絞って検出すべく装置を改良する.安定粒子種と異なり窒素原子はサンプリングの途中で再結合により消滅することが懸念される.これを最小限にするには,大気圧側と高真空側をつなぐ差動排気部の設計を最適化する必要があり,ここに重きを置いた装置開発を進める.
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