研究課題/領域番号 |
20H02134
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
和田 圭二 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (00326018)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パワーデバイス / SiC-MOSFET / 劣化診断 |
研究実績の概要 |
パワーエレクトロニクス機器の信頼性向上を目的に,パワーモジュールの劣化検出に関する検討を実施した。本年度は,パワー半導体である SiC MOSFET のゲート酸化膜の劣化を検出対象とした。今後実用化が加速すると考えられるSiC MOSFETは,従来のSiパワー半導体と比較して,ゲート酸化膜にかかるストレスが原理的に大きい。したがって,SiC MOSFET のゲート酸化膜の劣化特性を明らかにし,劣化検出技術を確立する意義は大きいと考える。 はじめに,パワエレ機器内におけるパワー半導体の劣化特性を明らかにするため,新たな加速劣化試験器の開発として,回路方式・制御手法・回路構造・回路内部の電流を検出するロゴスキー電流計測技術について検討を進めた。従来の加速劣化試験は,被試験デバイスに静的なストレス(DC電圧)を印加する手法が採用されている。しかし,実際のパワエレ機器ではパワー半導体は,スイッチング周波数で変化する動的なストレスが印加される。そこで本研究では,パワエレ機器内に実装されたパワー半導体を被試験デバイスとして,加速劣化試験が可能な試験器を開発した。開発した試験器は,最大800 V,50 A,100 kHzの連続スイッチングを行うことが可能である。さらに,連続スイッチング中のパワー半導体のゲート酸化膜に,定格以上の電圧を印加することで,加速劣化を同時に行うことができる。この試験器により,パワー半導体の実使用条件に近い加速劣化試験が可能となった。 次に,開発した加速劣化試験器を用いて,SiC MOSFET のゲート酸化膜の劣化特性を評価した。測定結果より,SiC MOSFET のオン抵抗やゲートしきい値電圧,入力容量に劣化の傾向を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,高信頼パワーエレクトロニクスシステムの実現を目指して,回路動作中の電圧・電流波形(瞬時値)からパワーモジュールの劣化を検出する技術を確立し,突発的な故障停止を未然に防止することを目的としている。現在までに,市販されているSiC MOSFET を対象として実用的な電圧・電流・スイッチング周波数において評価検証できる装置の設計製作と予備試験を用いた検証がすでに完了している。この装置は,最大800 V,50 A,100 kHzの連続スイッチング装置であり,これからの値は使用するパワーデバイスに応じて任意の値に可変することが可能である。さらに,市販のSiC MOSFET においてはほぼ全てのデバイスに対応可能である。 さらに,劣化評価指標として 具体的にはMOSFET のオン抵抗やゲートしきい値電圧,入力容量が変動するが,温度依存特性のもっとも小さいゲート入力容量の変動に着目することがオンライン測定に最適であることを明らかにした。これらの評価においては,市販の測定装置にて計測可能な精度であることを実験により確認した。 以上のように,パワーデバイスの劣化評価を行うための加速劣化試験装置がすでに完了していること,および劣化評価指標をするためのパラメータを特定したことによって本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実施した本研究の加速劣化試験の結果からも,ゲート酸化膜の劣化によるCV特性の変動が明らかである。劣化特性のオンライン測定を考えると,CV特性は,ゲート酸化膜によりパワー回路と絶縁されたゲート端子の電圧・電流を測定すればよく,測定回路に求められる定格は小さい。さらに,パワー半導体が使用される温度領域において,温度依存性は無視できるレベルであるため劣化特性のみを測定することができる。また,CV特性は,パワー回路の動作状態に依らず測定できるため,パワー回路停止時に測定することによって,スイッチング動作時に発生するノイズによる影響を低減することが可能である。以上の特長を考慮して,本研究では,ゲート酸化膜の劣化を検出するために,CV特性の変動を電力変換回路が動作しているオンラインでの測定技術の確立を目指す。 CV特性の変動をオンラインで測定するためには,ゲート駆動回路内部に測定回路を実装する必要がある。半導体の評価を専門とする分野においては,様々なCV特性の測定方法が提案および確立されている。そこで,それらの測定方法の中からパワエレ機器内の実装に適した測定方法および測定回路の検討を行う。まず,CV特性の変動を検出するために必要なセンサの測定精度を定量的にすることによって,低コスト・高信頼な測定回路の設計が可能となることを目指す。今後の研究としては,オンライン測定用のセンサを実装したパワーモジュールを試作し,パワエレ機器内におけるCV特性測定を模擬した実験を行う予定である。さらに,開発した加速劣化試験器を用いて,試作した測定回路の連続スイッチング動作およびオンライン測定の実証実験を行う。
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