研究課題/領域番号 |
20H02140
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
岩田 晋弥 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (10642382)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 絶縁劣化 / 電気トリー / 水トリー / 分子動力学計算 / 量子化学計算 / 空間電荷 / 電流積分電荷法 |
研究実績の概要 |
高分子電気絶縁材料は、電力インフラを支える重要な要素のひとつであり、その劣化や破壊の原理を解明することが喫緊の課題である。2020年度は、主に以下の項目について研究を実施した。 (1)高分子絶縁材料の電気的な要因による劣化を抑制するため、添加剤が利用されている。例えば、ポリエチレンの架橋に用いられるDicumyl peroxideの分解残渣、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などがある。2020年度は、鎖式飽和炭化水素の分子集団中に架橋剤分解残渣および水分子を配置した場合の水分子の運動について、温度および外部電界の影響を分子動力学計算によって評価した。その結果、特定の分子の組み合わせによって、温度や電界の影響が大きくなることが明らかとなった。 (2)絶縁劣化の典型例である電気トリーの発生と進展には、電界に加え残留応力が影響を与える可能性がある。高分子絶縁材料の劣化にともなう分子の構造変化を評価するため、Raman散乱分光測定を実施した。外力と外部電界の両方の影響を考慮する必要があり、2020年度は外力に着目し実験を進めた。試料にはポリエチレンシートを用い、張力の有無によってスペクトル変化を観測した。過去に提唱されているモデルと比較し、起因する振動モード等の考察を進めた。次年度以降は、外部電界の影響について評価を行う。 (3)高分子電気絶縁材料の絶縁劣化の要因の一つとして、空間電荷蓄積が知られている。パルス静電応力法による空間電荷測定が一般的であるが、近年では、材料内部を流れる漏洩電流の影響も着目されている。これまで実施されてきたパルス静電応力法による電荷蓄積の解析に加え、電流積分電荷法を使用した微小電流の経時変化を考慮することで、絶縁材料の導電率や緩和時間について考察を進めた。 得られた成果については、電気学会全国大会、電気学会研究会などで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の理由により、おおむね順調に推移している。 [1]当初の予定通り、Raman散乱分光測定を中心として、ポリエチレン試料を対象とした評価実験を進めることができている。また、量子化学計算を活用し、化学結合の切断時に必要とする外力等に関する計算を実施した。 [2]外部機関の研究者、技術者の協力を得ることで、パルス静電応力法による空間電荷測定における課題を整理することができ、新たな測定手法、解析手法の基礎的な構築を進めた。 [3]計算機シミュレーションを活用した研究内容について、外部機関の研究者、技術者の協力を得ることによって、得られた結果に対して多面的な視点で考察を行うことが可能となっている。特に、架橋剤分解残渣、界面活性剤、酸化防止剤などの具体的な計算対象に対し、実験的な立場の経験や知見を活かした考察を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、主に以下の[1]~[3]の内容を実施する。 [1]高分子電気絶縁材料が高電界によって劣化するとき、高分子の結合状態がどのように変化するかを評価する。具体的には、Raman散乱分光測定等を活用し、外部電界印加を施したポリエチレンシート等のスペクトルを測定する。電界を印加した状態でスペクトルをその場観察するための実験セットアップの構築を試みる。 [2]分子動力学計算を活用し、ポリエチレン等を模擬した分子集団内で、添加剤や水分子がどのような動的挙動を示すかを評価する。特に、ポリエチレン架橋剤分解残渣、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などに着目し、分子間相互作用の観点から考察を進める。特に、水トリー発生に関しては、水分子の凝集と拡散が深く影響を及ぼすと考えられる。さらに、大規模計算機を活用した量子化学計算により、高電界が分子の電子状態に与える影響を評価する。特に、劣化の一因である酸素原子が関与する場合に着目し、結合エネルギーや開裂条件の変化を導出する。 [3]電気トリーの発生と進展は、絶縁劣化の典型例のひとつであるが、その駆動力については未解明な点が多い。有限要素解析等を活用した電界解析により、き裂発生のエネルギーに着目し、外部電界が電気トリー発生に与える影響をマクロな力学・電磁気学的観点から考察する。まずは、駆動力の計算が実行可能なモデルを検討する。また、発生と進展の差異に着目し、電気トリーの分岐構造が形成される要因について考察を進める。
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