本年度の研究では、Watanabe-Yasunaga 2021で提案したビットセキュリティの定義が、2018年にMiciancio-Walterによって提案されていたビットセキュリティの定義と本質的に等価であることを示した。我々の定義は攻撃者の成功確率を1に近づけるためのコストとして操作的に定義されていた。一方、Miciancio-Walterの定義は情報量の比として定義されており、二つの定義の間の関係が不明であった。二つの定義の等価性が示されたことにより、状況に応じて二つの定義の使いやすい方を採用できるようになった。特に、我々の定義ではビットセキュリティがレニーダイバージェンスによってい評価されるため、確率分布に関する凸性等、セキュリティの解析において便利な性質が利用できるため、本成果の意義は大きい。 また、昨年に得ていた符号化問題のタイトな強逆指数定理を導出するアイディアを完成させ、論文としてまとめた。例えば通信路符号化問題では、通信レートがShannonの通信路容量を超えた場合、誤り確率が指数的に1に収束することが古くから知られている。多数のユーザが参加するマルチユーザネットワークにおいては、最近になっていくつかの進展があるものの、タイトな収束速度が明らかにされていない状況であった。本論文は長年未解決であったWAKネットワークにおける強逆指数定理を解決するもので、学会に与えるインパクトは大きい。また、本成果を使って、攻撃者のメモリが制限されている状況における秘匿増強のセキュリティ解析に成功した。
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