研究課題/領域番号 |
20H02160
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山本 貴富喜 東京工業大学, 工学院, 准教授 (20322688)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細菌1細胞解析 / ウイルス1粒子解析 / ナノ流体デバイス / 電気インピーダンス / 誘電泳動 / ナノ電極 |
研究実績の概要 |
ナノ電極系は低電圧で高電界が得られる特殊な場という特徴を合目的的に利用して,細菌1細胞の電気インピーダンス計測の実証および高電界効果の解明を目的としている。今年度は細菌1細胞計測に当たり,細菌を1列に配列して細菌を1つずつ測定部に供給する前処理部の開発を行った。 当初の計画の通り,マイクロ・ナノ流路構造を作製して細菌を1列に並べたところ,細菌は粘着性が高く,流路壁面に吸着して流路を閉塞し,動作不良となる状況が散見された。そこで,流路のような機械的な構造ではなく,静電力による仮想的な流路構造により細菌を1列に並べつつ,流れによって1列に配列したまま測定部に送り出す仕組みを新たに考案して評価した。様々な電極デザインを作製して研究した結果,最初は2列で並べて徐々に電極間隔を狭めて細菌を1列に並べるような電極構造が最も効率よく細菌を1列に並べて下流に供給できることが判明し,導入した乳酸菌を90%の確立で1列に並べて下流に流すことに成功した。 また,これらの研究の過程で,電極基板表面への細菌の吸着を防止するため10種類以上のコーティング剤と溶液中に界面活性剤の添加を併用する吸着防止法も考案した。全ての組み合わせを評価した結果,基板表面はフッ素系コーティングかつ溶液中には0.03%のTriton-Xを添加することで細菌の吸着を大幅に抑止することに成功し,細菌の1列配列化実現の助けとなった。 これらの研究の過程で,乳酸菌と大腸菌では静電力の作用が異なり,乳酸菌に較べて大腸菌は1列配列の効率が下がることが判明した。これは静電力である誘電泳動力は周波数依存性があるため,乳酸菌と大腸菌で最適な周波数が異なることを反映しているものと考えられる。すなわち,今後実施する細菌1細胞計測においては細菌によって周波数応答が異なることが予想され,電気インピーダンス計測で細菌の種類を同定できることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初案による流路構造で細菌を1列に並べつつ測定部に送る方法は細菌の吸着により難しいことが発覚したものの,新たに考案した静電力による配列化技術の実証に成功し,流路無しで細菌を1列に並べるという,より実用性の高い技術の実現に成功したため当初の計画を上回ったと言える。この技術は細菌だけでなく,ウイルスや細胞などのあらゆるバイオナノ粒子の1列配列化に応用可能であるため,様々なアプリケーションへの応用が期待される。 なお,本研究を通じてダスキンの研究賞を受賞すると共に,今後の共同研究の足がかりを得ることもできた。まだ1年に満たない期間でこれらの成果が得られ,国際誌のMichlomachinesに"One-Dimensional Flow of Bacteria on an Electrode Rail by Dielectrophoresis: Toward Single-Cell-Based Analysis"として発表することもでき,当初計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた成果を元に,細菌の1列配列化技術の高度化を進めつつ,当初計画の通りに細菌1細胞の電気的検出を試みる。計測に当たっては,研究計画に記載したとおりに本研究で導入したロックインアンプを用いる予定である。細菌1細胞からの電流信号変化はpAレベルの超微少信号になると予想されるため,必要に応じてプリアンプを導入(市販品あるいは自作)や,シールドボックスの作製なども行いノイズを低減することで,細菌1細胞計測を実証する。その次に,様々な周波数応答を調べることで細菌1細胞の電気インピーダンス計測を進め,細菌の電気物性値の取得を試みる。細菌に関しては,既に我々の研究で実績があり安全性も高い乳酸菌や大腸菌を用いる予定である。さらに研究の進捗状況次第では,本手法をウイルスまで拡大し,細菌やウイルスなどの病原性微生物を単一粒子の精度・感度で計測する新手法へと展開する予定である。
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